次に目を開けたとき、おれは舞台の上に立っていた。
舞台の下にはたくさんの観客が並び、期待に満ちた目で役者を見ている。
『さあ、今宵も観客を満足させる最高の劇を送ろうじゃないか!』
誰かの声が聞こえ、おれは自分の手をしばらく見つめてからぎゅっと強く握り締めた。
そうだ。
"僕"は演じるんだ。
最高の役者になるんだ。
…劇は何事もなく進んだ。
役者の演技ひとつひとつに観客の目が釘付けになる。
劇は終盤。
犯人を追い詰めた探偵の名演技で終わりを迎える。
メイドを殺害した犯人に、探偵が告げた。
『償う気持ちはあるかい?罪悪感を感じているのかい?ならば、自分が犯した罪を償うがいい。さあ…この手を取って、その罪を償うんだ』
犯人の少女が僕の手を取る。
これから彼女は、自分が犯した罪を償わなければならない。
僕と同じように。
…いや、違う。
僕は犯人じゃない、"探偵"だ。
罪なんてない。
鳴り響くベルの音。
ああ、また劇が始まる。
…また?
僕は何回探偵を演じた?
何回同じ台詞を口にした?
思い出せない。
僕は…なんで劇をしているんだ?
舞台の下に広がる観客たちの顔を見回す。
どれも見慣れた顔ばかり。
拍手の音も賛美の声も、みんな聞き慣れている。
僕はいつからここで役者をしているんだろう。
もう何年になる?
いや、その前に。
僕は……誰なんだ?
探偵?犯人?使用人?コック?
わからない、わからない。
開幕のベルが鳴り響き、演劇が始まる。
僕は館の主人。
強欲で人使いの荒い男。
使用人の青年がナイフを握りしめる。
血飛沫と同時に観客は悲鳴を上げ、探偵と犯人の演技を見た後、観客はその素晴らしい演技に拍手を送るだろう。
そうだ。
それこそ最高の演劇。
いつまでも終わることのない演劇だ。
だけど、これで僕の"演劇"は終わるだろう。
振り下ろされるナイフを見つめながら、僕は笑みを浮かべた。
次の"犯人"は、"僕"によく似た青年。
ああ、終わらない、終わらない。