深夜皆が寝静まった頃、はっと目が覚めた。気分が悪く、お手洗いにいった。部屋に戻る途中急に息がつまった。視界が狭くなったと思ったら目がチカチカしてふらふらした。お水を飲まないと、と思い階段を一段降り、それでもやっぱり無理そうで座りこもうと手すりに捕まったけれど今日の手すりは一段と磨かれていて中途半端に力を入れたためか滑った。支えをなくした私は体が投げ出されたかのように感じた。


「おいっ…!クソ姉貴!」


下で懐かしい声が聞こえた気がしたけれど、意識が朦朧としてわからない。ゴンッゴロゴロドサッという音と共に完全に意識を失った。



「いってぇ!おい、姉貴大丈夫か…うわぁあああ!」

「ん…」


誰か聞き覚えのない高い声が耳に入ってきて私は目覚めた。体の節々が痛い。そういえば私落ちたんだっけ。誰かと衝突もしたような…。
状態を起こし目の前をみると【私】がいた。【私】が自身と私を交互にみてみて叫んでいる。どういうこと?
立ち上がり自分の体を見て磨かれた手すりに自分の顔を映し、唖然とした。思わず自分の格好をみた。金と紫のツートンカラーの髪に淡いクリームと白色の服。どうみてもWの姿だった。

「…きゃああああ」


事態を飲み込んだ途端、叫ばずにはいられなかった。叫んでいるはずなのに声は低く、尻餅をつきながら自分の喉を抑えて愕然とした。声までWだ。


「おい、俺の姿で叫ぶな!おねえ座りするな!」


【私】が必死に片腕をブンブンしながら私に怒鳴ってきた。【私】の眉間には皺が深く刻みこまれていてとても怖い顔だ。あんなの【私】ではない。


「ああ。どうしちゃったのかしら。これは夢かしら」

「夢じゃねーだろ。身体中が痛い上だるい。吐きそうだ。っておい!スターの顔を傷つけるな!」


私が顔を手のひらで強く叩いたりつねったりしていると【私】が怒り細い腕で私の腕をつかみ止めさせた。なんだか変な気分。【私】がいる。目の前に【私】が…。


「どうやら俺達入れ替わったみたいだな」

「入れ替わったって…まさかあなたW?」

「今更かよ」

「私の中にW…」


よりにもよってWが【私】だなんて!というよりWが部屋からでてきてるわ!
姿は【私】であるけれど、私はWを力いっぱい抱きしめようとしたがすらりと簡単に避けられてしまった。


「いいか?俺の姿でそんな行為をするな!」

「なによ…人がどれだけ心配したと、思ってるの…?」

「お、おい!ちょ、泣くなっ!」

「え?」


頬に触れると温かい液体が流れていて、私は慌てて手のひらで拭った。いつの間にか涙が頬を伝って流れていたようだ。


「やだ、そ、そんなつもりじゃなかったのに!」

「ほらよ、とりあえずこれで拭けよ」


どこからともなくターンブル&アッサーのハンカチを取り出しWが差し出してくれた。私が受け取ると同時に、VやXが寝巻きのままでてきた。


「姉様達まだ起きていらっしゃるんですか?」

「Wはまたこんな時間に起きて…」


Vは目をこすりながら、Xは不機嫌そうにしゃべり、ターンブル&アッサーのハンカチで涙を拭う私の姿をみた途端二人共固まった。やや間があってVが驚きの声をあげた。


「W兄様が泣いてる!」

「W、人のハンカチを勝手に使うなとあれだけ…」

「俺じゃねぇよ!いや、持ってたのは俺だけど」


Wが【私】の姿でWのようにいったのにVもXもショックを受けたような顔をした。私は早く二人に説明しなければ、と急いで涙をふき取った。


「あのね、実は…」

「だからてめぇ喋り方…!」


この後Wが私の話し方について一々口出しした所為もあって、私とWが入れ替わったことを伝えるだけで10分もかかった。
伝え終わった後も二人はショックを受けたままで暗い顔をしていた。Xは顔を少し俯き気味に、口元に手を持って行きその肘を片方の手のひらで支えて何か考えるような素振りをした後思口を開いた。


「トロンに相談しよう」

「そういうと思ったぜ」


Wは相談しても無駄だとでもいうように、Xの提案に馬鹿にしたように返した。Xは私の姿をしたWを無表情のままちらりと見ただけで、反応しなかった。怒ると思ったのに、というより私だったら絶対に怒ったのに、Xの大人な態度に姉として恥ずかしくなった。私もXを見習わなきゃ、と考えているうちに気が利くVが「お飲み物をお持ちします」といってドリンクカウンターへいき数分後にはコップの乗ったお盆を持って戻ってきた。皆テーブルについてVの淹れた蜂蜜入りホットミルクを飲んだ。


「とにかくトロンを起こすわけにはいかないから朝まで待つ。Vは寝るといい」

「いえ、僕は…」

「Xのいう通りよ。あなたはもう寝ないと」

「…姉様達がそう仰るなら」


お休みなさい、とVはいうと寝室へ行ってしまった。私はここで重要なことを思い出し、思わずあ、と声をあげてしまった。


「どうした?」

「べ、別に…」

「何か思いついたのか?」

「違う…でも大事なことを思い出して…」


二人は私を興味津々に見つめてくるので、言いたくはないあのことを言わなければいけない気がした。それでも言った後の二人の反応を考えると絶対に言いたくはなかった。


「なんでもないわ。明日用事があるだけでそれまでに元通りになれば大丈夫よ」

「明日は日曜日か…主日礼拝にいくのか?」

「あ、うん。そうよ。日課だから…午後もちょっと用事があって…」


Xに聞かれて答えたのに何故か段々Wが不機嫌な顔をする。


「勝手にしろ。俺は寝る」

「あ、W!寝ちゃうの?」


私の呼びかけにも応じずWは自分の部屋へと戻ってしまった。残された私はXにも寝るように勧めたけれどXは私と起きている、と言ってくれた。トロンが起きるまで私とXは世間話をしていたのだけれど、なかなかXが目を合わせてくれなかった。



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