『サラね、あなたのことがすき!』

『はぁ?お、おれは別におまえのことなんか…』






『おい、サラ。遊ぼうぜ』

『えー。サラはケント君と遊ぶからだめー』

『え?』

『だってサラ、あなたよりケント君のことが……』


やめろ。言うな。言うな、言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな…


『好きなの!』

「言うなぁぁああっ!」


最悪な目覚めだ。嫌な汗をかいちまった。髪をかき上げ今の悪夢を忘れようとした。しかしここ最近似たような悪夢ばかりみるせいで忘れられない。
幼い頃の記憶。最近まで思い出したことのないどうでもいい記憶だったはずなのに、今や胸くそ悪い記憶だ。
何故こんな夢を、と考えるが考える度に姉貴しか原因が浮かばず嫌になる。



『WもXみたいに育ってくれたらよかったのに』

『Wは可愛くないわ』


姉貴が時々Xに愚痴を零すのを聞いていた。姉貴がXやVより俺を好いていないのはなんとなくわかってた。それに、姉貴が知らない男と手をつないで歩いているのを最近みかけた。姉貴も年頃だからわかるが、こんなときに男を作るなんて少し軽蔑した。どうせ男に目がくらんで俺や家族を蔑ろにするんだろって思うとイライラした。うざいうざいうざい。姉貴がむかつく。こんな悪夢を見るのは姉貴の所為だ。姉貴もサラも皆嫌いだ。

喉が乾いた。時計をみれば短針が2を指していた。真夜中だ。今なら皆寝ているだろう。一応サイドデッキに水差しが置いてあるが俺は冷えたミネラルウォーターじゃないとだめだ。寝間着のまま台所に下りることにしよう。



部屋を出た途端違和感を感じた。階段下が明るい気がする。もしかしたら誰か起きてるかもしれん。だがしかし、Xは引きこもりで夜中は起きていても自室で本を読んでいて、Vはこの時間には必ず寝ているはず。姉貴は夜にワインを飲み、酔いつぶれながらも「睡眠不足は美容の大敵!」といい早く寝ている(大体はXが寝室まで運ぶ係りになっているが)。ならトロンか…。トロンならまあいいか。
階段を下り、リビングへでる扉を開けると部屋の中央テーブルでXとVが何やら真剣に話し込んでいた。ちっ。XとVか。


「W兄様!」

「どうしたW?顔色が悪いぞ」


二人して心配そうにこっちを見てくるもんだから落ち着かなく「大丈夫だ」とだけ応えて俺は冷蔵庫のミネラルウォーターをとりに台所に足を運んだ。グラスにいっぱいにミネラルウォーターを注ぎ少し飲んだ後、やっと気分が良くなってきた。
グラスを持ちXとVのいるテーブルの端に付き黙って会話を聞いていた。


「やっぱり日曜日が怪しいと思います」

「ああ。恐らくそこで会っているか、または別のところで…」


何を話してるのかさっぱりだったが二人共神妙な顔つきで話しているのがどうも気になった。


「W兄様は何か姉様について知っていますか?」


片腕を椅子の背もたれに回し意味もなくグラスを持っているとVが話題を振ってきた。


「あ?」

「最近姉様に悪い虫がついているみたいです」

「ああ、そんなことか」


こんな夜中に何を話してるかと思えば姉貴についてか。くだらない。あんなやつ放っておけばいいのに。


「そんなことか、だって?いつも姉様に迷惑かけといて…」

「V、止めないか」

「ごめんなさい。でも、僕は僕の姉様がどこの馬の骨かも分からないやつと付き合うのは嫌です」

「私も相手により許容できない場合がある」

ちょっと待て、と言いたくなった。クソ姉貴のことなんか大嫌いだが、恋人選びは本人の自由だろ。何故俺達兄弟が介入するんだ。このシスコン共め。第一こいつら昔から姉貴信者だからむかつくんだよ。何かにつけて姉様だの姉さんだのうるせえんだよ。その所為で姉貴はこいつらばかり贔屓するし。


「今度の日曜日に姉様を尾行してみます」

「それがいいだろう。まずは相手の情報収集から…」

「おいおい。そこまですんのか?姉貴の勝手だろ。おまえ等が誰かと付き合おうが姉貴には関係ないし、姉貴が誰かと付き合おうがおまえ等には関係ないだろ」


と言ってもこれ以上姉貴のことを考えたくないだけで、正直俺も姉貴が誰かと付き合うのは嫌だ。それは家族に何かしらの害を及ぼすからで決して姉貴を慕ってのことではない。断じてだ。
だが、今まで恋人の存在がいなかったのが異常なことで、20歳過ぎ漸くできた恋人なのだから放っておけばいい。姉貴は周りからとやかく言われるのを嫌うしな。それにどうせ姉貴なんかと長続きするやつなんていない。お堅い姉貴が簡単に股を開くわけではないし、きれいなままうちに返してさえすれば問題はない。
まあそんなこと、普段の俺には決して口にはだせないし、なおかつ姉貴と喧嘩中の身だ。口が裂けてもいえない。

VとXは俺の批判にショックを受けたような顔をして、次の瞬間にはXが静かに怒ったように「本気でいってるのか?」と聞いてきた。


「ああ。当たり前だろ」

「ワインを嗜み始め約一年…姉さんは飲む度に酔いつぶれている。この前などキスをせがまれた」


Xの自慢げにいう様子が鼻につき全力で殴りたくなった。


「普段しっかりしていて時々抜けることがある程度の隙しかない姉さんだが、酒には弱い上甘えたがりやだ」

「そういえば最近酒にだらしないな」

「…そして今までの交際経験はゼロだ。恋愛依存度が高い傾向がある」


そんな見方をしたことがなかった。姉貴が恋愛依存?それは困る。だが今更こいつらのやろうとすることに賛成する気にはなれなかった。


「だから心配だってか?まあ勝手にストーキングでもなんでもしておけばいいさ」

「…姉さんを嫌う奴に何を話しても無駄だったな。時におまえ、姉さんに謝ったのか?」

「はあ?俺は悪いことをした覚えはないから謝んねぇよ」

「姉さんは心配していたぞ。それに少し言い過ぎた、と反省していた」

「Vと買い物いったり、男とデートしてる姉貴がか?」

「それは…!」


Vが何かをいいかけて口をつぐんだ。ほらな。否定しない。姉貴は俺のことどうでもいいんだ。


「最近姉様は様子がおかしいです。きっとW兄様が…」

「おまえらまで俺を責めるのか?」


VとXを睨みつけると二人共黙った。Vはしょぼくれ、Xは無言で睨み返してきて居たたまれなくなってきた。


「寝る」


俺は乱暴に立ち上がりリビングを後にした。寝室に着いてから飲みかけの水を置きっぱなしにしてきたことに気づき、片付けなくてはと思ったが、リビングに戻る気にはなれなかった。「また散らかしたままね!」と、怒る姉貴を思い出し少しイラついた。不思議とさっきより姉貴にイラついてないのはVとXの所為かと思うと気分が沈んだ。



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