姉様と久しぶりの買い物。X兄様もW兄様もいない、姉様と二人っきりの買い物だ。いわばデートってやつだ。近所の本屋さんまでの短い距離だけど、一緒に歩くのさえとても楽しい。
本屋で一緒に同じコーナーを色々見て、いいと言ったのに姉様がお金をだしてくれて今月発売されたばかりの『オーパーツの謎〜男達の果てなき探求〜』を買ってくださった。
そのまま帰ると思ったら姉様がカフェに入りたいといいだして一緒にお茶をすることになった。
誰かと二人だけで喫茶店に入るのは初めてで緊張する。それが姉様と二人だけなので尚更だ。


「ねぇ、Vはどんな娘がタイプなの?」

「え?ぼ、僕は…」


白のプラスチックスプーンでハチミツが大量に入ったカップチーノをかき混ぜながら姉様が急に振ってきたものだから言葉が詰まってしまった。
困ったな。そんなこと考えたことがなかった。だって今も昔も僕には家族しかいない。他の人に触れる機会がないのだ。それにそんな機会があったって姉様と暮らしている以上姉様以外の女性を好きになるとはとうてい思えなかった。姉様はいつでも僕の自慢の素晴らしい姉であるからだ。
それにしても姉様がそんなことを質問してくるなんて驚いた。何か嫌な予感がする。


「何故そのような質問を…?」

「べ、別にただちょっと気になっただけなの。気にしないでねーあはは」

「姉様はどのような方がタイプですか?」

「え?私ー?えっと…この話止めない?」


姉様の目は完全に泳いでいた。
ああ、思った通りだ。姉様は何かを隠している。そして十中八九あれだろう。姉様にはきっと…。




帰り道、行きより姉様とは距離を置いて歩いた。会話もないまま、僕はもんもんと姉様のことを考えながら、しばらく姉様より少し先を歩いていると姉様は小走りに僕の隣まできた。


「なんでXもVも不機嫌になるのよ?ほら、手」


まるで僕が拗ねたみたいに姉様は僕の手を握ってきた。暖かい姉様の手。何故だろう。とても懐かしい気がする。
僕はぎゅっと姉様の手を握り、狭い小道を歩いた。家に近づくにつれネオンが少なくなり暗い道が続いた。少し先のコンビニ前に少しチャラチャラした男が二人いる。僕と目があった気がしたのでそらして平然と歩いていると二人が近づいてきた。ああ。駅に近い場所だとこういう人が多いんだっけ。
僕は姉様の手を殊更強く握った。
二人が僕と姉様の前までくるので、僕は姉様を隠すように姉様の前で立ち止まった。
一人の黒髪で一見清潔感がありそうだけど顔面が下品なやつがニヤニヤしながら愚鈍にも気安く話しかけてきた。


「あのうすみません。よかったら今からカラオケいきませんか?」

「行きません」


姉様は僕の後ろからでてきてきっぱりと断った。なんだか僕のプライドが少し傷ついた。姉様は相変わらず強い。


「30分だけでもいいんだけど」


もう一人の茶髪の男が姉様をいやらしい目で見ながら言ってきた。気持ち悪い。気持ち悪い。僕の姉様をそんなで目で見るな。穢らわしい。
段々イライラしてきて、茶髪の男が姉様の腕をつかみしつこく誘ってきたときにはもう僕は我慢できなかった。


「姉様に触れるな!」


僕は男の手を乱暴に離し姉様の腰に手を当て、腕をつかみ穢らわしい男共に触れられないようにした。次に何かしたら僕が潰してやる。
そう考えて睨みつけているとこともあろうか黒髪の方は感心したようにとんでもないことを言った。


「姉様ってことは…すげぇ美人姉妹だな」

「僕は男だ!」


許さない。姉様に触れただけではなく僕にまで失礼を働くとは。ああもうこんなやつらとは関わりたくない。


「姉様、さあ行きましょう」


僕は姉様を守るように男共から遠ざけて目をあわせず早歩きした。もう流石に追いかけてくる様子もなかったが、安心できない。僕はずっと姉様にくっついたまま家まで早歩きした。姉様も僕も何もしゃべらなかった。
玄関に入る前、姉様は「もう大丈夫だから」と僕から離れた。


「さっきはありがとう」

「姉様はお強いです。だから僕は大したこと…」

「ううん。私怖かったのよ。だってあんな暗いところで…Vと一緒でよかったわ」


姉様は安心したようで張りつめていた顔がふわりとした笑顔に変わり、僕も安心して緊張がほどけた。そして「Vと一緒でよかったわ」という言葉に僕はとても嬉しくなった。
しかしそれも束の間のことで姉様の携帯に着信があったようで、姉様は携帯をとりだし相手の名前を確認した。姉様は僕が見たこともないような笑顔を浮かべ、「ちょっと先入ってて」と僕に玄関に入るよう指をさす。ああ。僕の嫌な予感は当たってしまったようだ。普段なら姉様の命令に従うところだけど今回は無理そうだ。
僕は姉様に近づき、携帯ごと姉様の小さな手を握りの電源ボタンを二度押して電話を切った。電話を切る際ちらり、と見た着信の画面には男の名前が表示されていた。


「姉様、僕みたいな男はどうですか?」


驚く姉様の目を見つめて提案すれば「調子に乗んないの」と怒られたけれど、顔を真っ赤にさせた姉様の様子が見れて僕は満足した。



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