「W、開けてくれる?いるんでしょ?返事して。ううん。やっぱり返事しなくてもいいからご飯だけは食べてね。ドアの前に置いとくから。プリンもあるわよ」
Wの部屋の前に一食分の食事が乗ったおぼんを起き、私は居間に戻った。あのおぼんに乗った極上プリンは私のであるがそうは言っていられない。Wがでてくるためならプリンすらも捧げられる。
ここ数日Wは外にでてる時以外部屋に閉じこもりっぱなしだ。前にもこんなことがあったから大丈夫だろうとXはいうけれどとても心配だ。
居間のテーブルで食事を作るために中断してあった編み物に取りかかった。居間には私から離れたソファで読書をしているXとテーブルに最近お気に入りらしい『図説考古学書』を開いたまま台所へお茶を入れにいったVがいる。トロンはきっと自室でアニメでも見ているのだろう。
うつらうつらしながらも編み物をしているとVが緑茶をそっとテーブルに置いてくれた。
「姉様、お茶をお入れしました」
「あら、ありがとう。Vは良い子ね」
「いえ、そんな」
謙遜しながらもニコニコと笑うVに癒やされながら、作業を再び中断しマイセンのティーカップに入った緑茶はすすった。
すると、Xが珍しく口をだしてきた。
「姉さん、ティーカップで緑茶は…」
「いいじゃない。別に。あなたまで『高貴ではない』っていうの?」
「そういうつもりではないが。V、そこへ置いてくれ」
Xは近くの三脚テーブルを指差していたが、VはXの習慣を知っていたから既に三脚テーブルに紅茶を置いているところであった。
会話もすぐに途切れ部屋は静かになった。Vがテーブルに戻り『図説考古学書』の続きを読み始めるまでの動作音が目立つ程本当に静かであった。
いつもならWが私の勉強や作業の邪魔してきたり、トランプしろよとかゲームしろよとか誘ってくるのに。Wがいないと、こんなに静かで編み物も進むものなんだ。
何だか寂しくなってきて、編み物もしたくなくなってきて手が止まった。
「ねぇ、V」
「なんでしょうか、姉様?」
「ちょっと本屋にでも行かない?」
「はい!行きたいです!」
Vはキラキラと目を輝かせ、喜ぶので私は思わず顔を綻ばせてしまった。
「こんな時間にでかけるのは危ない。私も行く」
「Xは残ってて」
一度Xは立ち上がって言ったものの私がピシャリと言いつけると不機嫌そうに黙って座ってしまった。ちょっと言い方が悪かったかしら。
「ありがとう。でも、Wが居間に来た時に誰もいなかったら可哀想でしょう?それに私がついているんだからVは大丈夫よ。お留守番よろしくね」
「いってらっしゃい」
顔をあげずに不機嫌そうに言い放つXに見送られて私とVは本屋さんへとでかけた。