ハートランドシティの中心部の最重要機関であるビルの中、今晩もハルト様は窓辺に立って外を眺めていた。暗がりの窓ガラスには左手が置かれていてやがて眠そうに目を擦るので、寝ましょうと声をかけた。しかしハルト様は頭をゆっくり左右に振る。私はハルト様の窓ガラスに触れて冷えてしまった方の手をとった。子供の手だというのに恐ろしいほど冷たい。


「ほら、こんなに冷えていますよ」

「…温かい」


ハルト様はぽつり、と呟くと私の手を握った。力のなく弱々しい手だ。それに部屋が暗いために手が青白くみえる。私がこの細い手首を握るだけで、血流が断絶しハルト様は死んでしまいそうだ。我ながら恐ろしいことを考えてしまった。ここ最近ハルト様が死んでしまうというヴィジョンばかりが想起する。ハルト様の状態がよくないせいかもしれない。
私はハルト様の手を空いた手で包んだ。トクン、と私の心臓が跳ね上がった気がした。いつもそう。ハルト様を近くに感じ、ある一定以上触れると気分がおかしくなる。熱くなって気分が高揚し少し寒気を感じて苦しくなって死にたくなる。これもハルト様の特殊能力なのではと疑ったことがあるけれど、相手の気分をコントロールできる人間がいるわけがないとしばらくしてから気づいた。ハルト様の兄であるカイト様に相談しようと思っていたけれど、嫌な予感がして相談しなかった。


「ねえ…僕と一緒に寝て」


不意にハルト様は私の古びた服の裾を掴み、いつもの表情のない顔で上目遣い気味に私を見上げて抑揚のない小さな声で呟くように言った。心臓がまたもや跳ね上がった。私はハルト様と一緒に眠りたい。
しかしMr.ハートランド様の顔が一瞬頭を過ぎり身体が震えた。Mr.ハートランド様はこんなこときっと許してはくださらない。必要以上にハルト様に近づいてはならないと仰せつかっている。ましてや監視カメラによって24時間見られているのだ。絶対に怒られてしまう。また怖い思いはしたくない。
それなのに私はハルト様と寝たい気持ちの方が強く、ふわふわと浮き足だつ気持ちでハルト様をベッドにいざない一緒に横になった。不思議な気持ちだ。だんだん何も考えられないくらい心が浮ついてくる。
ハルト様はすぐに眠ってしまった。私は時間が経つにつれてまた心臓が激しく暴れるのを感じた。苦しい。苦しい。苦しい。
隣のハルト様は暗がりではあるが安らかな顔で眠っているのがわかる。ハルト様の心臓はどのようになっているんだろう。
私はハルト様の左胸あたりにそっと触れた。トクントクンと静かに時を刻み、私の心臓とは全く違った。


「兄さん…」


突然ハルト様が呟くよものだから、私はびっくりして手を引っ込めた。しかし、よく観察するとハルト様は眠っていた。寝言だったらしい。安心したのも束の間のことで、ハルト様が寝言にだすほどカイト様のことを慕っていると思うと何故だか悲しくなった。
ああ、苦しい。悲しい。辛い。死にたい。ハルト様、私は死にたいです。この暴れる心臓を取り除いてくださいハルト様。
一生かかっても返事をしてもらえないとわかりつつ、ハルト様、ハルト様と心内で呼びかけ続けた。そして次第に苦しくなる心臓に耐えられなくなった私は護身用ナイフを取り出し原因の元をそれで取り除いた。闇夜で赤黒く見える血が吹き出した。とても激しい血潮だ。ああ、これで救われる。
血潮を被ったハルト様が私の名前を呼んだことなど私は知らない。


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