「大丈夫か?」

「ひっ!」

広告部に誤って送られてきた物資を持ち運んで廊下を歩いていると、運営委員の鉄の女と恐れられるドロワさんに声をかけられた。大きなダンボールであるためにドロワさんの姿は少ししかみえないが、声はクールでとがってはいるものの、優しそうな響きであった。しかし、正式な面識はなく、ドロワさんにまつわる黒い噂を聞いていただけに、思わずびっくりしてダンボールを落としそうになったがドロワさんが支えてくれたおかげで、なんとか落とさずにすんだ。


「あ、ありがとうございます…」

「貸せ」

「あ」


ドロワさんは私の持っていたダンボールを私と向かい合わせになるようにつかみ、方向転換するので、私は引っ張られるように自分の進行方向とは逆に向いてしまった。もつれるように歩いたので、筋肉痛の脚に響いた。


「離せ。無理はするな」

「いえ、でも!」

「脚を痛そうにして歩いていたが大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫です!」


驚いた。脚が筋肉痛で痛むことがバレていたのだ。そんなに痛そうに歩いていたわけでもないのに。ドロワさんの洞察力に関心しながらもダンボールを持つ手は離せなかった。


「頑固なやつだ」

「よく言われます」

「それでどこに運ぶのだ?」

「…運営部までです」

「なら尚更私が運ぶのが良かろう。もう戻っていいぞ」

「でも…」

「無理をして仕事ができなくなったらどうする?我がハートランドに無能なやつはいらん」


ドロワさんの口調はとてつ冷たかったけれど、仕事熱心で有名なだけあってか、仕事への情熱が伝わってきた。それでも言い方がきついだけあって、私はしゅんとして大人しく手を離し、道を開けた。


「ありがとうございます」

「礼には及ばん」


頭を下げるとドロワさんはクールに言ってツカツカと重いダンボールを物ともせずに歩いていってしまった。力強く真っ直ぐ歩くドロワさんの背中はかっこよく、胸がときめき脚の痛さなんて忘れていた。









百聞は一見にしかず
(噂って当てにならないのね)


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