ちゅっと可愛い音を立てて、私の唇から柔らかいなにかが離れた。唇に何かが触れた瞬間驚いて目を開けると大きな瞳と目があい、次の瞬間男の子はクスクス笑いながら顔を見る暇もなくすぐに仮面をつけてしまった。私は唖然として自分の背丈よりも小さい男の子を見つめていた。
年下の子にキスされた。しかもファーストキスを奪われた。ショックというより驚きで声もでなかった。
さっきの一瞬の出来事が頭の中で何回も再生されるが、別の誰かに起き、あたかも自分が夢の中でみたような、どこか幻想じみた感じがした。


「固まってどうしたんですか?」


相変わらずクスクス笑いながら私の顔を覗きこむようにトロン君は聞いてきた。いつものトロン君の調子にはっとして、今し方起きたことは現実のものだと気づいた。


「どうしたかじゃなくて、キス!」

「それはあなたが仮面をとって欲しいと言ったからでしょう」

「そうだけど…いや、それ理由になってないし!」

「仮面をとる代わりに代償がいると言ったんですけどねぇ?」


トロン君はそういって仮面の下から覗く赤みを帯びぷっくりとした唇を人差し指で撫でている。子供のくせになんとも艶やかで魅惑的にも見える。むしろ、子供特有の綺麗さ、とでもいうのか。兎に角、その姿に目を奪われた。あの滑らかでぷっくりとした唇が、私の唇と重なったのだろうか…って、いやいやいや。何を考えてるんだ自分は。相手は年下、トロン君。そんな阿呆な。


「だ、代償ってキスだったの?」

「まあ目的としてはあのたの驚く姿を見るためでしたが。ふふっ…なんとも間抜け面でした」

「な、なんですと?というか、私トロン君の顔見れなかった!」

「そうですか…ではまた見てみます?」


トロン君は私に近づき、私の唇に、トロン君の指が触れた。心臓がとくり、と小さく跳ね、緊張した。
あの綺麗な唇は美しい弧を描き、妖気な笑みをたたえていた。私は思わずごくりと固唾を呑んだ。
彼が意味するのはきっとさっきと同じこと。素顔を見たければ、キスをして、間抜け面でいろ、てことだろう。
するわけがない。トロン君とキスだなんて。頭の中で否定して、でも身体は自然とトロン君の頭を捕らえていて、仮面を取り捨て、トロン君のあの唇に食らいついた。









今度は彼が驚く番




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -