体育が終わり着替えようとすると制服がなくなっていた。数学の時間にはノートがなくなっていて教科書には悪口や卑猥な言葉が書き殴られていた。泣きそうになり唇を噛み締め前に階段から突き飛ばされてできた右手の痣を触れた。

たちの悪いいじめが始まったのはその一週間前くらいからだった。理由は思いあたらなかった。仲のいい友達はいるから惨めな思いはしていないけれど、いじめをしてくる人が特定できなくて困っていた。だけど、今日友達の証言で犯人が見つかった。犯人は隣のクラスの子でなんと凌ちゃんの元カノだった。
凌ちゃんがいつの間にか付き合い始めてて、凌ちゃんが振った子だ。凌ちゃんが振ったことをしらなければ、私は彼女を憎んでたかもしれない。でも多分彼女は私と同じように凌ちゃんに恋してふられた側だ(私は告白はしていないけど)。彼女はかわいそうだから怒りはわき起こらず、ただ酷いことをされて悲しいだけだった。だから、話がしたい。もう止めて、て。私に酷いことをする理由は多分学校でも凌ちゃんと会って話してるからだろうけど理由もちゃんと聞きたい(最近はカイト君のために挨拶しかしてないけれど)。
とにかく私はすぐにその子と話し合いすることにした。


「何故体操着のままなんだ?」

「べ、別に!」


隣の教室へ行くと凌ちゃんとばったり会ってしまった。凌ちゃんの質問を流して私はすぐ自分の教室に戻ろうとすると凌ちゃんは私の肩をつかんで引き留めてきた。その突然の行為にどきりとし、振り向くと凌ちゃんは不安そうな顔をしていた。


「おまえ最近変だぞ」

「わ、私…」


肩を掴まれたままで、緊張して何もいえなかった。ただ熱を帯びる顔に恥じらいを感じさらに緊張した。久しぶりに会って近くで会話してるだけで何故緊張してドキドキするのか自分にもわからなかった。
なんとか声をだそうと口を開くと、凌牙、と呼ぶ声がした。凜とした綺麗な声。声のする方をみると凌ちゃんの前の彼女がいた。彼女が凌ちゃんを呼んだみたいだ。凌ちゃんは私を離し近づいてくる彼女と向き合った。彼女は私になんか目もくれず、「なんだ?」と聞く凌ちゃんに何やら授業について何か頼み事をし始めた。
私はただ彼女が怖くなって教室から逃げるように走ってでた。後ろで凌ちゃんの呼ぶ声がした気がした。



逃げ出した私だけれど、私を心配する友達のためにも、なんとかしようと凌ちゃんを避けながら帰り際の彼女を引き止め空き教室に来させた。
彼女は腕を組み、「なんの用?」と冷たく聞いてきた。


「あ、あの、嫌がらせは止めてください。その…迷惑です」


震える声で言い切ったとき、少し緊張がほどけた。彼女のいい返事を待っていると彼女はニッコリ笑うものだから、安心して私も少し笑うと、彼女がつかつかと私に近づいて、ばちんっと何かが叩かれる音がなった。私の頬は熱を帯び目尻に何か暖かいものがじわりと浮かび上がった。


「あんたに、あんたに何がわかるの!?あんたが迷惑なのよ!」

「え…あ…」


わけがわからなかった。ただ悲しい気持ちと理不尽な状況に戸惑いを感じた。


「お願いだから凌牙に近づかないで!話しかけないで!目も合わせないで!」


彼女の目には涙が溢れてて私は何もいえなかったけれど私もさらに悲しくなって泣いた。彼女の嫉妬する気持ちや独占欲、さらには振られた悲しみが痛いほど伝わってきたからだ。
突然教室の扉が開く音がしてみると凌ちゃんだった。私は呆然としていたが彼女ははっとして驚く凌ちゃんの肩にぶつかって走り去った。凌ちゃんは彼女を振り向いたがすぐにこっちにきて大丈夫か、と聞いてくれた。その優しい言葉に涙が一層溢れ、何度も頷くと凌ちゃんは私を抱きしめてくれた。


「俺が守ってやるから泣くな」


いつか聞き覚えのある台詞を凌ちゃんは言って私の頭を撫でてくれた。とても嬉しくて安心したけれど、好意に甘えるわけにはいかなかった。私は凌ちゃんを押して離れた。


「彼女、泣いてたよ」

「おまえも泣いてるだろ」

「違うよ…追いかけなきゃだめだよ」

「だが…」

「凌ちゃん、私は大丈夫だから。カ、カイト君がいるから」


カイト君の名前で凌ちゃんは顔を歪め舌打ちをして、踵を返し行ってしまった。
残された私はきゅう、と痛む胸を抑え誰もいない教室でただ泣いていた。嗚咽と共にでてきた言葉は私が唯一弱さをさらけ出せ頼れる人の名前だった。









星の溺れた場所
「カイト君カイト君っ…!」

(慰めてくれる人がいればそれでいい)



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