※プラシドさんがDVします。不快なお話です。
少し下を向いていた顔は急に天地がひっくり返ったことで、見慣れた玄関からリビングへ通じる廊下の天井を向いた。とっさに頭に手を伸ばそうかとしたけれど腕を動かせる気力はなかった。
いつの間にか私の視界には大好きな人でいっぱいだった。にこり、と笑いかけると私をゴミでも見るかのような目をして、私のお腹に足をおいてグリグリしてきた。う、と息がつまり呼吸しようと口を開と、今度は胸ぐらを掴まれて口を唇で塞がれた。長くて柔らかい舌が私の舌っ足らずな舌を絡めとめ唾液がすわれてく。苦しい苦しい。苦しいよ。空気を求めて一生懸命吸うと彼の舌の柔らかさも口内の温かさも唾液も流れて私の中へ溶け込んでいくのを感じた。頭がだんだんぼーっとしてきて、溶けそうだった。幸せの瞬間であるのと同時に苦難の瞬間だった。このままでは窒息しかねないから彼の胸を押すが、離れない。逆に骨が砕けるほど強く抱きしめてきて、死にそうになった。なにか皮膚やら神経やらがピクピクし始めて死ぬな、と思ったら口も体も解放された。よかった。生きた。
解放されたはずの体はいうことを聞かずに床にしゃがみこんでしまった。うまく呼吸もできずに肩で息を吸った。しかし吸っても吸っても生きた心地がしなかった。
「何度外にでるなといえばわかるんだ?」
「でて…ないよっ…」
プラシドさんは私の言葉を信じてないようで怒った顔で手をあげた。脳に叩き込まれた恐怖が蘇り私はすぐに頭をかばった。
「でてない!」
「嘘をつくな!」
頭と手に衝撃が走った。為すすべもなく私は倒れてそれでも話を聞いてもらおうと床に伏したまま口だけを動かした。
「だってこの首輪、玄関まで届かないもの」
「ふん。どうせ隠した鍵を見つけて外したのだろう」
私の首輪に繋がれた鎖をプラシドさんは踏みつけていった。
「私そんなことしない!」
「俺から逃げないというのか?こんなことをしてもか!」
わけがわからなかった。怖くて目を閉じてたからわからなかった。ただ体中に何度も何度も衝撃が走っているのはわかる。口から何か言葉がでてきた。なんの言葉かわからない。叫び声か言葉にならない言葉がでてきた気がした。
「おい」
プラシドさんの声が急に優しくなるものだからはっとして痺れる体を動かしてプラシドさんを見上げた。プラシドさんは不安そうな顔をして私を見下ろしている。
「痣、」
プラシドさんは私の腕を持ち上げ、真っ青なできたばかりの痣を優しくさすってキスをしてくれた。痛むはずの痣のところがむずがゆくなった。いつものようにわからない行動に困惑しつつプラシドさんの動きを見守っているとプラシドさんは私を抱きしめてくれた。体中が暖かくなり、安心した。至福のときがきたのだ。やっぱり私は愛されてるのだと確かに実感する瞬間だった。
「私プラシドさんとずっと一緒にいたいです」
こんな生活が続くのに愛を感じる瞬間が少しでもあれば満たされる私は病気かもしれない。
その比率1:9