「負けた」

「ぷっ。ださっ」


あんまりにもしょぼくれて文字通り肩を落としているディックを見て笑う他はなかった。建物の屋上で賞品のレアカードを賭けたこのリーグ戦で負ければ仕方のないことだけれど落ち込みようが極端に激しい。


「わ、笑うな!」


私より下の位置にいながらディックは顔を真っ赤にし、腕を振り上げて怒る。「ごめんごめん。ほら、上においで」と、地に片手をついて身を乗り出しタンクの上から手を差し伸べれば、むすっとしながらも私の手を受け取ってくれた。よいしょと引っ張り上げ後ろに下がり、いつものように私の前に着地するはずだった。しかし上手く上がってこない。それどころか彼が自分でタンク上に手をつかず私に全体重をかけているのか、私までが落ちそうになる。危ない、と思いっきり後ろに重心をかけると、彼が飛び乗ってくるのと同時に倒れた。


「いったぁぁぁい!ちょっ…ど、どいてよ」

「うるさい」


打った背中が物凄く痛く、その上にディックが覆いかぶさって、ちょっとどきどきした。痛みがさらに恋してるみたいにどきどきを増幅させ、まるでディックが好きみたいになった。
ディックはどこうとする様子もなく、私を見つめる。


「な、なに?」

「おまえって横になるとブスだな」

「なんですって!?」


ディックの言葉に怒って、私はディックを横に押しのけ、立ち上がるついでに横っ面をひっぱたいてやった。この暴力女!と叫ばれたが、知ったこっちゃない。
少しでもディックにどきどきした私が恥ずかしくて憎い。さっきのどきどきは錯覚と思い込むことにした。
いつもディックはそうなんだ。馬鹿のくせに私がディックを好きみたいな錯覚をさせる。ディックがかっこよくみえるのもきっと錯視のせい。心理的ななにかを働かせてるに違いない。馬鹿なディックなのにディックが私より一枚上手だと考えるのは屈辱だが、ディックは多分心理学を心得ているのだ。私がどうやったらどきどきしてディックを好きだと思い込むのか。
いい加減この手にはまるつもりはない。次は絶対引っかからないぞ、と決意した途端ディックは急にニカッと笑って私の手をつかみ引っ張った。


「こっちきて下のデュエル観戦しようぜ!」








無邪気な策士にはまる
「どうした?顔赤いぜ」
「だ、だって…」

(あの笑顔で手首引っ張るのは反則!)




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