プラシド長官様が不機嫌でいらっしゃられる。 理由はともかくとばっちりだけはごめん被るので、できるだけ静謐に自分の仕事に取り組んでいた。隙を見せたらやられる!という不安があり、緊張があるためか、PCのタイプミスばかり生じてしまいなかなか進まなかった。とは、いってもデータ処理はほぼ八割は済んでいた。必要事項の入力を終え、あとはバックアップだけになり、データを読み込んでいる最中、突然白い物が視界を横切り、USBがぶっとんだ。 できるだけ表情にださないようにしても、そのことに慣れていても、あまりのショックに顔が真っ青になった。 とんでいったUSBは見事壁に刺さっていて、あまり壁に亀裂が入っていないことから相当な力で素早く投げたことが伺えるが問題はそこではない。 「長官、様!」 デスクを叩きたい衝動を抑え、デスクに手をついて椅子から立ち上がり、長官様を睨みつけた。 長官様の無理難題に答えるために昨日から夜通しで作業して、やっと任務が終えると思ったのに。この仕打ちはいくら機嫌の悪い長官様相手でも我慢ならなかった。 「ほう。この俺に逆らうのか」 ゆったりした口調で、しかし、怒りを含んだような声色で長官様は剣の柄に手をかけるものだから、これ以上何も反抗することができず、長官様を無視してUSBの救出に向かった。 100%壊れてるであろうUSBは垂直に刺さっていてとても抜けそうにはなく、それでも諦めきれず、わずか三センチくらい飛び出ている部分をつかみ、引っ張った。勿論抜けない。 残る手段は長官様に抜いてもらうことだけれ機嫌の悪い長官様が動くはずもない。ほんのちょっと期待して長官様を振り向けば、目の前には鋭利な刃物が光っていた。長官様がいつの間にやら私に剣を向けていたようだ。 怖くて冷や汗がどっとでて、動けず固まっていると長官様は剣を下ろし、ほっとしたのも束の間のことで肩を押され、壁に固定された。両手で長官様を押しのけようとすれば、片方の袖の部分を剣で壁に打ちつけられ、もう片方はつかまれた。あと数センチでもずれていたら手首ごとやられてた、ということを思うとさらに恐怖心にかられ、腰が抜けた。のに、さらに股の間に膝を入れられ固定され、片足を踏まれた。まともに動けるのは頭だけとなった。その頭もすぐ近くに長官様の端正なお顔があり、そして、鋭い目つきにより反らすことなんてできない。 絶体絶命だ。そもそも私が何をしたというの。 「あの…」 「気に入らない」 「え?」 耳を捕まれ、購入したばかりのピアスをとられ投げ捨てられた。あーっ!と頭の中で絶叫して心の中で泣いた。あれは数量限定発売で販売当日に千単位の行列ができた幻のピアスだったのに! 「J、A…ジャック・アトラスか?」 殺意のこもったとてつもなく冷たい目で睨まれ背筋がぞっとした。 「はい。オークションで…その…ら、落札しました」 「奴等に関わるなといったはずだが?」 「さ、流石にイニシャルのみの商品なら大丈夫だと思っていまして…」 「…貴様には躾が必要なようだな」 「いえ、既に室長に十分されてきましたので」 「その割にはなっていないようだが。あのドングリピエロは無能だな」 「室長の侮辱は許しま…あ、いや、なんでもないです!」 「時間内にも終わらせられない貴様も無能だ」 「いや、確かこの任務は深夜一時までと…」 「言い訳か?どうやらその生半可な脳髄に分からせるしかないな」 「ご、ご勘弁を!」 必死の抵抗にもかかわらず、長時間に渡り耳元で長官様の素敵なお声によるお説教が繰り返された。 八つ当たりの八方塞がり 「だから貴様は屑で使えない」 (罵られているのに…こ、腰がくだける!) |