ペットの犬が私の食べ残しにありついていると、急に顔を上げそわそわしながら私の前にでた。 この反応は、と身構えていると、扉のない入口から誰かさんの鼻が覗き、すぐに全体が姿を現した。 「探したぜぇ」 「またあなた?」 いつもの鉄パイプ一本片手にニヤニヤしながらやってきたハンスに呆れつつも、廃墟となった病院のここ三階まで音を立てずに来られたらことには内心驚いた。結局この子が気づいちゃったけれど。ああー、ハンスの方へ行ってしまった。 「おうおう。相変わらず可愛い犬だな」 ハンスは鉄パイプを置いてしゃがみこみ、尻尾を振って彼に寄り添うと撫で始めた。よしよし、と撫でる姿が愛おしくも憎い。 「それで、今度は何?」 「今回も勧誘だ。いい加減仲間になれよ!」 「そっちがいい加減あきらめなさいよ」 「なんでだよ!?」 「私は誰かに付き従うのがいやって何回言わせれば気が済むの?」 「あいつらはいい奴等だからおまえをこき使うなんてことしないぜ」 「いいえ。彼らはきっと私が女だからって上から目線で物を言うのよ」 「はぁ…。いつになったら仲間になってくれんだ」 ハンスは立ち上がり、肩をすくめた。眉はまるで捨てられたら子犬のように八の字に下がる。ああ。なんて可愛い表情をするのかしら彼は。私がもっと自由に彼の表情を操れるようになれればいいのに。でも、彼に仲間がいる以上それはできない。 「一生ならない。帰って」 「なんだよ。女一人は危ないんだぞ」 「その子がいるもの。大丈夫よ」 おいで、と手招きすればトテトテとやってきて、私の前で座った。ほら、この子は私の思い通りに動いてくれる。なかなか思い通りにならないハンスには本当に腹が立つ。 ハンスはケッと面白くなさそうに鉄パイプを拾い上げ背を向けて部屋の外へ歩き始めた。振り向け振り向け、そう念じても彼はそうすることもなくただ片手を挙げてじゃあな、という。ああ。本当にこいつは…。もう。言いたいのに言えない。もどかしいっていう可愛いもんじゃない。イライラが募る。ついに耐えられなくなって片足で思いっきり床を踏み込んだ。割と安定しているおかげで抜けることもなくバンッと固い音が響く。それを勢いに口から言葉が飛び出した。 「待ちなさいよ!」 ハンスが立ち止まりやっと振り向いた。驚いたようで目をまん丸にさせている。その顔を私好みに加工したくて仕方がない。 「デュエルしなさい」 「げーおまえとやったら負ける気がするんだけどな」 「私が負けたら仲間になるわ」 「なら、やるぜ!」 途端に鉄パイプを投げ捨て、片手を振り回しながら腕に付けっぱなしであったデュエルディスクを展開させた。私もベッド上からデュエルディスクを拾い上げ装着した。 「それでおまえが勝ったらどうするんだ?」 さっきとは打って変わって、既に勝つ気満々なハンスは意地の悪い笑みを浮かべ聞いてくるもんだから、私はもっと意地悪く笑った。 「私の言うこと一つだけ聞いて」 「なんか怪しいな。だが俺が勝てば仲間になるんだろ!?あ、おまえが勝っても一生勧誘禁止、なんてナシだぜ?」 「もちろん」 尾を振らぬ犬を狩る (勝ったら調教、勝ったら調教) 口の端から欲望が垂れた |