電話をしながら待ち合わせ場所のテラスにいるはずのブレオを探した。昼の時間帯だけありテラスはいっぱいで彼を探すのは大変なはずだが、多くの黒髪や茶髪、明らかに染めたような金髪の中で彼の綺麗に揃えられた金髪は目立っていた。


「今着いたわ。見える?」

『あ?ああ』

携帯片手に手を振るとブレオは気づいたようでこっちを見て軽く手を挙げた。携帯をカバンにしまい、ブレオの近くに寄り、彼がわざわざ立ち上がり、引いてくれた椅子に座った。


「ちょっと遅れたわね。久しぶり」

「あー気にするな、来たばかりだしな。それより悪いな。ここんとこ忙しくて構ってやれなくて」

「試合にでてないのに忙しいって?」

「それを言うなって。アンドレが一人で勝っちまうんだからしょうがないだろ」

「ふーん」


私とブレオを隔てる意匠の凝った円卓にはメニュー版が置いてあり、早速開いて何を注文しようか考えた。


「割り勘にしましょ」

「あー、今日くらい俺が奢ってやるって」

「言ったわね」

「限度は考えろよ」

「すみませーん。ピンチョス全種とチュロスとチョコラテ、アイス、トゥーロン、マカロン、ガトーバスク…」

「お、おい。待てよ!」

「うるさい。えっと、あとウィンナーコーヒーお願いします」


店員に頼み終わるとブレオがテーブルに両肘を付き俯いて頭を抱えていた。数ヶ月彼女ほったらかしたんだから、この状況は当然なんだから罪悪感なんてわかない。むしろざまーみろ。


「どこで俺は教育を間違えたんだ?」

「父親気取らないで」


冷たくいうと、ブレオはばっと顔をあげて、なんとも形容しがたい焦ったような表情を浮かべる。


「いや、確か付き合い始めは良い子ですごく可愛かっただろ!」

「今は可愛くないって…?」

「そうじゃなくて…!俺が『奢ってやる』っていったらいつも抱きついて『わーい』とか言ってたよな?『ありがとう』とかキスしてべったり俺にくっついていたおまえはなんだったんだ!?」

「あー、あのときはあなたが大好きだったから」

「え?今は?」

「もっと好き」


だったら今日来なかった、なんて付け足そうと思ったけど、調子に乗られるのは嫌だから我慢して黙った。当然ブレオは怪訝な顔をする。


「なら、何故…」

「成長したの。あの頃は馬鹿だったから我慢なんてせずになんでもホイホイやっちゃって。本当に馬鹿だったわ」

「うっ。なんか俺が悪い男だって言われてる気が…」

「ふん。自覚が足りないんじゃない?」

「…あ、そのピアス初デートのときもしてたな」


わざと今までに貰ったピアスをつけなかったけれど、まさかそんな昔のピアスを覚えられててそこをつっこまれるとは思わなかった。無理やりな話題転換するな、と返せばいいのだけれど、あまりにも予想外で動揺してしまい、適当に「自分で買ったのだから」と返しておいた。あんたからのものはつけない、というのもついでに暗喩して。


「ん、いや、あんときおまえ『これもらったのー』とか自慢してなかったか?」

「は?」


正直覚えていなかった。ブレオに貰ったのは別にして他のはいっさいしまってしまったから。今日のこのピアスは必死に探してみつけたのだし。
こういうときだけ彼の記憶力の良さは腹立つ。だけど、逆にいえば彼は自分があげたものはわかるということで、私が彼から貰ったものは一つも身につけていないのがわかるだろう。
だからここはひとまず適当に流せばいい。


「忘れちゃった。でも大切なのは確か」

「へー、じゃあそのバッグは?」

「買った」

「いや、おさがりとか言ってただろ」


この男は…!
聞かれたくないことをどんどん詰問されイライラが募る。そんな中ウェイターがおずおずとチョコラテとチュロスをテーブルに運んでくれた。入れ立てであろうチョコラテからは湯気がたっている。


「こんなに…きなのに」

「え?」

「好きなのに! 好きなのに!! 反省しろぉぉぉ!」


チョコラテを手に取りカップごとブレオに投げつけた。






彼はこの熱を感じただろうか?
「あっちぃー!な、なにすんだ!?」
「もう電話なんてしないんだから!」
「なんでだよ!?俺は二時間前からここにいたんだぞ!」
「私だって本当は四時間前には駅にいたんだから!このあほんだらぁ!」
「!」

(ブレオを置いて帰った日の夜から毎日ラブコールが来た)




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