「どうも。入っていいわよね?」 「え。あ、いや。まあ…」 片手にシェリー酒の瓶を二本を持ち、フランスパン一本を脇に挟み、その他お菓子の入った紙袋を抱えた状態で呆然とするブレオを押しのけて、家に上がり込んだ。 廊下をずんずん歩いていってリビングに入り、硝子のテーブルに荷物を全部置きソファに深々と座る。最近来てない間に模様替えをしたようだけど部屋が狭く感じる。 「お、おいどうしたんだよ?人がせっかくDVD見てたのによ」 ブレオは無造作に少し間を空けて私の隣に座ってきた。目の前のテレビは女性と男性が抱き合ってるところで画面が止まっていた。なんというタイミングで来てしまったのよ私。テーブルに置いてあったテレビリモコンを手にとってテレビの電源を消した。 「おわっ!おまえなにすんだよ!?」 「こんなのよりsinちゃんの方が面白い。グラスと栓抜き持ってきて」 シェリー酒を手にとって、棚を指さすとブレオは立ち上がる。 「sinちゃんは面白いがジャンル違うだろ!あー何があったんだよ?」 「今日何の日か知ってる?」 「…俺の誕生日?」 グラスと栓抜きをテーブルに置きながら、ブレオは首を傾げた。 「ありがと。ブレオって確か今フリーでしょ?」 シェリー酒を自分の分だけ注ぎ、飲んだ。口の中で苦く冷たく泡がはじけた。 「うわっ。スルーかよ。まあフリーだがよ」 「私も今フリーなの」 「あれ?おまえは確か一月頃付き合ってなかったか」 「黙ってくれる?」 「…今日は何の日なんだよ?」 「ブラックデー」 「は?」 「どっかのお国ではそういう日があるの。とにかく恋人がいない同士慰め合わなきゃいけないんだから、ほら! 注いで注いで!」 シェリー酒には手を出さなかったブレオだけど、私が促すとおずおずとシェリー酒をグラスに注ぎ、お互い乾杯した。 「それがさ、『君のことが好きだが、今は仕事に…』っておかしいでしょ?振るんなら未練が残らないように冷めたぐらいいいなさいよーっ!うぃっく」 「あーわかるぞ、それ! だが、俺なんか彼女の前でデュエルで負けた瞬間ポイされたぜ! しかもすぐに勝った男に媚びってよぉ…」 「それ前にも聞いたかも。というか流石に彼が負けたらポイとかないわ…そういうときこそ優しい言葉かけるんじゃない」 「だろ?マジ軽いヤツって萎えるよなぁ」 「そういえば、元カレに『重い』って言われたわ」 「失礼なやつだな。仮にも女なのにな」 「馬鹿ね!飲みすぎて頭が鈍くなったんじゃない?私が一途で可愛いって意味よ!」 「ぬはは!可愛いって鏡見てこいよ。今なんか化粧崩れしてるぞ!」 「あなたこそ鏡みなさいよ!むしろ今までの彼女はあなたの顔をよく見るべきね」 「言うよな」 「そっちも」 お互い馬鹿笑いして、新しい葡萄酒を開けて飲みあい続けた。呂律も頭も回らなくぼーとし始めた頃、ソファに横になった。ブレオは床に座ってまだ飲んでいる。 「いい気持ちー。寝ちゃいそー」 「寝ちまえ寝ちまえ。襲ってやるから」 「そんな勇気ないくせに青二才がよく言うわ」 「いや、真面目に今ならいけそうな気がする」 「私結婚前提じゃないとやらせましぇーん」 「じゃあつきあうか?」 「えーブレオと?」 あはは、と笑ってみせたけど、ブレオの顔を見れば赤いが真剣で口を閉ざしてしまった。どんだけこの子婚活に必死なのよ…。 「お試しならどうぞ」 「お試しでどれくらい保つかな」 ニヤリと笑うブレオの手から葡萄酒をひったくて、一気に飲み込んだ。ますます加熱する私は冷めることを知らない。 四月十四日は恋人記念日 「おや、すみ…」 「よく男の前で…ってもう寝てるのかよ!キ、キスくらいはしていいのかコレ?」 (重なる体に無意識にしがみついた) |