※スペインのサン・ホセ祭り


深夜十二時、真っ暗闇の中花火が打ち上げられた。一発、二発、一昨日より昨日より、大きな花火が連発した。こんなロマンチックな風景も周りの観光客や地元の人等にもみくちゃにされ、きれいと思えなかった。何よりも一緒に見にきたジャンが途中で消えてしまったため、不安で仕方なく花火の音にさえビクビクした。
手でも繋いでれば、と一瞬思ったけれどすぐその考えを打ち消した。私も彼もそんな柄ではなかった。はぐれないためだからといって繋いでもなんか変。そんなの私達じゃない。
なんとか狭い空間で携帯で電話をかけてみた。でない。
背伸びをして周りを探しても見つからない。この暗さであの髪色じゃあ見つからないのも無理はないけれど。


「すみません」


ひとまずこの人混みを抜け出さないと絶対に見つからないだろから、人混みをかきわけ町の中心にある巨大人形ファリャとは反対方向に向かった。後ろでは花火の音から爆竹の音に変わった。うるさいし怖い。
ファリャから遠ざかるにつれ人が少なくなり、更に不安になった。夜のひんやりとした空気が肌を刺すように痛い。背中のあたりがぞくぞくする。

ヒュルヒュルヒュル

パーン


また爆竹のようなうるさい音から花火らしい音に変わったが虚しい。
イタリア製の革靴のヒールが高すぎて脚が痛くなってきた。無理してはいてくるんじゃなかった。その場にしゃがみこみたいのを我慢してもう一度、あの人混みの中に加わろうと振り返った瞬間、手首を掴まれた。誰かと思えば闇夜色の服を身にまとい暗い空と同化しているジャンだった。彼の遥か後ろでは花火が陸離として上がった。


「どこをほっつき歩いてんだ?」

「あ、迷子」


目の前の男は眉間に皺を寄せ「誰が迷子だ」と言って私の頭を空いている方の手で小突いてきた。普段ならされることのない行為に少し嬉しく思いながら目を細めた。


「行くぞ」


私の手首をぐいぐいと引っ張って、ジャンは人混みの中へ入っていく。私もこの大きい手に導かれるように後ろからついていき、同化するように人混みに紛れた。よく周りを見ればカップルや家族で固まっている人が多くてなんだか温かい。それ以上に温かい手は鮮やかな花火がよく見えるところまで来ると離され、変わりに後頭部を押されたものだからよろけて前のめりにジャンの隣に数歩でた。離された手が名残惜しく、さっきみたいに迷子になられるのも嫌だからぎゅっとジャンのジャケットを握ると肩に腕を回され頭部の右側を軽く押された。特に抵抗せずなされるがままにするとちょうどジャンの肩に頭が乗っかる。高いヒールのをはいてきて良かったと思った。

パーン パーン


様々な色に輝く花火は次第に大きくなり、光も増す。ファリャに点火する数十分前だというのに辺りは既に花火で明るかった。






明明
「きれい」
「ああ」

(満足そうに口の端を吊り上げる彼を照らす花火は眩しいほどだった)

酒井様へ!(20100401)



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