「『太陽の国が月の国!?』失業率増加、EUの中で最悪…」

「第一声がそれか。とりあえず新聞しまいな」


昼下がりの玄関前で顔辺りに広げていた天下のエル・パ○ースの一面が指で弾かれた。パンッ、という指が新聞越しに鼻に当たるなんともいい音がした。あまり痛くはない。普段ならここでオーバーリアクションをとるところだが、今の私にはそんな元気はなかった。というよりも今の出来事を利用するのに脳が働いた。


「鼻が粉砕骨折、就職が決まるまでの宿泊を要求します」

「ならもっと骨折って病院送りにするか」


とか返しながら途端にドアが閉められそうになり、足を挟んで無理やりとめた。両腕で押して、なんとかギリギリいわせながらも少しずつ開けようと力をこめた。


「若くて、ピチピチの女性は、いりませんかぁ!?」

「いらないな。特に職が不毛な女は。押し売りセールスならもっと上手い嘘をつけ」

「事実、ですか、らぁ!」


閉めようとしているジャンの手首にチョップを食らわせても足を隙間から無理やり踏んでも扉は思うようには開かず入れそうにもない。


「せめてご飯食べさせてー!そうじゃないとデモに参加しちゃうよ!?」

「ならやつらみたいに喪服着て追悼でもしとけ」

「喪服サイズ合うの持ってないし、デモにお金なんてかけないんだから!」

「いい加減にしてくれ」

「なら婚姻届だそう!私を養って」


一瞬ジャンの扉を引く力が弱まった。やりぃ、とここぞとばかりに扉にタックルをかました。扉はジャンの手から離れて全開になり、今だ、とジャンを押しのけて入ろうとすると、突き飛ばされて転倒した。そして扉を閉められた。地面に手をつき起き上がり、呆然としていると中で鍵をかける音が一つ、二つ、三つ…四つぅ!?南京錠までかけてるのか!


「だから軽い女は嫌いなんだ。悪いが帰ってくれ!」


ひ、酷い。流石ジャン。なんて酷いんだ。冗談通じないとか。あと突き飛ばすとき私の胸を触っておきながら恥じらいもしないのか!
さっきまでの腰の低さなんて宇宙の彼方までとんでいき、今や怒りでいっぱいだ。


「もうジャンなんて知らないんだから。ばかぁ!ブレオに貢いでやる!!」


他の男のところへ行くとアピールだけしといて、広場へと直行した。途中も着いた後もベンチに座りジャンについて脳内でグチりながら、携帯を握り締め、カルメンが流れるのを待った。ハバネラのリズムは世界最強だと思う。

押して駄目ならひけ、というのは案外現実でも効果的なようで、友人体験談でよく聞く話だ。引き際が特に重要なようで、その駆け引きを男女の法則というらしい。ジャンはああみえてツンデレ気質だからこれは期待できる。






「どうも子供がお世話になりました。ほら、パコ。お姉ちゃんにお礼を言って」

「お姉ちゃんありがとう。バイバイ!」

「う、うん。バイバーイ。ははっはははは」


夕方になった。小さい子と遊んで電話がかかってくるのを待っていたが、もうあの子は親と帰ってしまい、広場に残ってるのはホームレスや学生が数人。あいつら暇だなー、とぼけっとしながら拾ったタウン誌を読んでいた。ふむふむ。就職には結婚できなさそうな顔が有利…誰だこの記事書いたやつ。ため息をついてタウン誌をたたみ、地面に投げ捨てた。


「よし!ジャンのところに帰ろう」






法則崩壊
「ブレオだ。開けてくれ」
「帰れよ」

(アンドレがたまたまやってくるまで開けてもらえませんでした)



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