「風馬ぁぁぁああ!」


扉を乱暴に開ければ、病室の奥のベッドで横たわる風馬が見えた。頭に包帯、足にギプスなんてなんという変わり果てた姿。すかさず看護士の方が「お静かに」と厳しく言うけれど、気にとめられる余裕なんて私にはなくて、風馬の元に駆け寄った。
目をつむり、表情の固そうな彼を見て少し不安になり、焦る気持ちを落ち着けるのにとりあえずベッドの横の椅子に腰掛け、フルーツのバスケットをサイドの台に置いた。


「看護士さん、彼は大丈夫でしょうか?」

「大したことはありませんよ。あなたが静かにしていれば!」


ショックすぎる。これが大したことない?看護士のクセにこんなに弱った風馬を見てそんなことをいうなんて!あああ。これだから看護士は信用ならないんだから。台の花瓶に入っている薔薇をどかして、風馬のために買ってきた菊の花をいけてあげた。風馬の病気がよくなりますようにと願いを込めるのも忘れない。さっき置いたフルーツバスケットからりんごを取り出し、「今りんご剥いてあげるからねー」と風馬に語りかけるように言って果物ナイフで剥こうとしたそのとき、風馬が突然ガバッと起きて私の手首をつかんだ。


「おまえは刃物を使うな!」

「風馬、無事だったの!?」


私からナイフを取り上げると、台において私の問いに頷いてくれた。


「よ、よかった。顔つきからして意識不明の昏睡状態かと思っちゃった!いつから気がついたの?昨日?今?トイレとかは大丈夫?着替えは足りてる?お風呂とかどうしてるの?体拭こうか?あ、ワックスとか使う?この前ヘアアレンジ用でメンズの間違えて買っちゃってさ…」

「た、頼むから落ち着いてくれ」

「落ち着けなんて無理よ!私がどれだけ心配したと思ってるの!?ただでさえあなたが出勤してるだけで心配なのに」

「いい加減俺の職業ぐらいは理解してほしいんだけど」

「理解してるからこそ、心配なの!だってD・ホイールなんて危ないものに乗りながらデュエルなんて…!」

「ライディングデュエルを毎回やるわけじゃない!ただのチェイサーなんだ!おまえは信頼が足りなさすぎるしいい加減D・ホイールの良さをわかってくれよ」

「わからないよっ!風馬がこんなになっちゃう乗り物なんか!!」


語気を荒げ言ったところでタイミング悪くつけたばかりのカラコンに違和感を感じ目頭から目尻にかけて指で拭うと、風馬は勘違いをしたようで「な、泣くなよ」と狼狽えた。ああ、せっかく目に優しい色のカラコンを付けてきたのに気づいていない。それを強く感じた私の目からは本当に涙が溢れ出てきた。


「馬鹿」

「ん?」

「風馬の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬風馬!」


椅子を蹴って立ち小走りに扉に向かい、私は病室を出た。出てから、あることに気づき顔が見えないように扉をちょっと開けて、指だけを指した。


「バスケットの中にカルシウム剤!一日二錠まで!」






幼なじみは心配性
「来てくれてありがとな!」

扉を閉めたのと同時に聞こえてきた言葉は温かかった。明日は椿の花とアミノ酸飲料水を持ってお見舞いにいこうと思った。



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