「なあ、俺のいいところあげてみろ」
広いテーブルの上に座り込みすごく偉そうな態度の鬼柳がいう
四箱も段ボールが積み上がった天辺にいる私を見上げる形なのに何故か見下された感じがしてならない
また?いい加減にしてほしいわ。アホ鬼柳。さっきまでデュエルディスクいじってたくせに、退屈になるといっつもどうでもいい話題振るの!
「あんたなんかに良いところあるわけないでしょ」
ふん、とつっけんどんに言って大好きな読書を続けた。今読んでるのはダサイ尾酒の斜腰。馬鹿丁寧に話す貴族出身の姉と、貴族の上品が嫌いで下品になろうとする口の悪いその弟というなんともキャラが濃くて面白い本
「いいから言えよ」
「……」
「おい!!!」
突然怒鳴られてびっくりして体が震えた。今なんか言ったの?聞いてなかった
「何…かな?」
「つまらねぇ」
鬼柳がソファーから立ち上がってこっちに近づいて立ち止まったかと思うと、私が乗っているにも関わらず二段目の段ボールを脚で蹴り飛ばした
怒ったら何するか、わからない(だけど怒らせないように気をつかうのも面倒なやつ!)。だから当然こいつが何するかわからなくて、反応できずに私は段ボールと共に崩れ落ちた
「いっ!」
段ボールから飛び出た中身――荒縄や銅線、鉄くずなどの所為で身体中に激痛が走った
打った頭を片手で擦りながら起き上がろうとしても体が痛くて動かせない
「あられもねー格好だなぁ」
上の方から降ってくる鬼柳の声はまるで私が自分からやったことのようで楽しみを含んでいて、腹が立つ
人を落としといてその態度はないでしょ。まるで玩具みたいに扱わないで。私だって体も心も傷つくのよ、そういいたくてもどうせ笑い飛ばされるだけだから黙っておいた
鬼柳に見られないようにスカートを抑え、潰れかけた段ボールの上に放り出した状態の脚をすぐに引いて、起き上がろうとした。だけど鬼柳が覆い被さってくるもんだからまた沈んでしまう
「変態!」
唇、鼻が触れそうなくらい顔が近いけど喚かずにはいられなかった。鬼柳の手が私の脚を滑り、舌が耳や瞼を這う
びくんびくんしてた体が慣れすぎて固まる。動かない。逃げれない
「おまえは本が好きなのか?俺が好きなのか?」
「…本」
懲りずに答えた
だって鬼柳より本のほうが面白いもの、と私が付け加えると鬼柳は鼻で笑う
「本、読めなくしてやろうか」
片手を捕まれ引っ張られる。痛い。けどそんなに強くはないから叫ぶほどのことでもない
今まで私はどんなに鬼柳に怒られても傷つけられたことはなかった。流石の鬼柳も私が玩具と違って完璧な修正はきかないし、私の代わりもいないことを理解している。私がいなくなったら暇を潰せるものがなくなり、ただ復讐しか考えない人形になってしまうから
だから私は止めて、と言わず、鬼柳が止めるのを待った
「…やっぱりつまんねぇな」
手がぱっと離され段ボールの上に落ちた
やっぱりね、と安心したのも束の間、鬼柳はさっき段ボールから飛び出た荒縄を手に取りいやらしい笑みを浮かべた
まさか…
「手が使えなきゃ本も読めなくなるよな。そうしたら…」
乱暴に私の両手を片手でまとめ、荒縄で結ぶ
きつく何度も巻き、肘近くまで達する
こうしたら本よりあなたを好きになると思っているの?
「不便ね」
「もう一度聞く。俺と本どっちが好きだ?」
「本」
「もう読めねえのにか?」
「ねえ。鬼柳って娯楽なの?」
「あ?」
「だって俺と本、て人は本みたいに娯楽の次元にはなれないのに、鬼柳が自分が娯楽であるかのように言うから…」
「何勘違いしてやがる。人だって娯楽だ。わかんねえか?」
私が首を傾げると鬼柳は一瞬顔をしかめたが、またニヤニヤと笑いだした
突然鬼柳の両腕が私の首に伸びてきた
「俺が、こうして、おまえの、苦痛で歪む顔を、見るのだって、娯楽だ」
がっ、と首を絞められ息が出来なくなる。酸素を求め酸欠状態の金魚の様に口をパクパクさせても吸えず、ただきゅう、と音がなった
苦しい。苦しい。息ができない。すごく苦しいよ、鬼柳。壊れちゃう
鬼柳はまるでどのくらい首を絞めたら人は死ぬのかを知っている様に、本当に死にそうになる私を寸でのところでぱっと離した。やっと息ができると思ったら唇を塞がれる
ただでさえ酸欠なのに鬼柳の舌は逃げる私の舌を絡めとり、息するのが更に困難になった。ときどき漏れる音がひゅうひゅういうやっと解放された私は肩が激しく上下するほど喘ぎ、拘束された両腕に不便を感じながら二の腕あたりで口元を拭った
熱を帯びた唇と液体を腕に感じそこから熱が身体中に伝染する
「わかるか?人が娯楽の意味が」
冷たい肌をぺたりとくっつけてくる鬼柳に自分からも熱い体をぴったりくっつけた
娯楽マリオネット
(なるほどこれは娯楽かもしれない)
そんなことを思う私は恒久に鬼柳の玩具