プラシド長官様(名前は室長から聞いた)の言葉が引っ掛かっていた私は、なんとか彼の意図を汲み取り(会社を止めさせるとか云々は冗談としてとった)、推敲し意見書を完成させた。あとは室長に見せるだけである。
終わった、とベッドに大の字になり、昨日破られたのと同じ意見書をもう一度コピーして、できたものと比べた。なるほど、前回のは酷すぎだ。表現が遠回しだし、あまりにも消極的過ぎて、ただの報告書に提案が書いてあるだけのようなものだ。一年仕事をこなしてきて、不満に思ったら何かしら口出して意見書なんて腐るほど書いたから、もううまく書けてると思ってた。いや、もしかすると書けてたんだ。それが前回急にだめになっちゃって…止めよう。言い訳だ、こんなの。
つくづく私らしくない、と前の【報告書】を破いた。

プラシド長官様には大分失礼なことを言ってしまった。恥ずかしい。謝らなくては。

そう思うも、謝りたくないという無駄に高いプライドがあり明日、いや、今日はどうしようと考えているうちに眠りについた。



「あーうー」

「……少し黙ってなさい」


意見書を室長に渡し読んでもらってる最中のこと。これが許可でたらあの長官様の元へ行ってしまうと考えると気が気でなかった。できればもう関わりたくない、と現実逃走に身をかられるがそんなことは言ってられない。逃げちゃだめだ。次会ったら昨日の勢いであの人に立ち向かって…それでそれで…謝ろう。まあ会う確率はかなり低いからいいんだ。どうにでもなれ。


「ふむ。あなたの割にはよくできてますね。長官に申請してみましょう。これが通る確率はゼロに等しいですが」

「そうですか…ってはぁぁぁ?ゼロって…!」

「おや、しっかり調べておられないようですね。法律は簡単に変えられるものではないのですよ」

「だって…」


私の記憶ではゴドウィン長官閣下が好き放題に色々整備したり、法律を敷いたりしてた覚えがある。しかしここで閣下のことを話せばまた何か言われるだろう。私は口を紡ぐしかなかった。
法律作るのには時間がかかる。面倒くさい。すなわち、交通規制法なんか受け付けない。そうですか。「新任長官はそういう考えの方なんですね」と軽くいってみた。鼻で笑われた。
私の努力はなんだったのだろうとソファーにゴロンと横になった。じゃあプラシド長官様が意図したのはなんだったの?「意見書なんか意味ねーんだよばーか」ということ?嫌いだ。新任長官のプラシドというやつは嫌いだ。

うぅ。もう力つきた…。


「まあ完全にゼロというわけではないので、あなたの常識の欠如はお気になさらず」

「無知で悪かったですねー」


ああ、なんだこのやるせなさ。穴があったらそこに入って埋めてほしい。永眠したい。むしろ土に帰りたい。
やっぱりここの治安維持局は最悪な局だったの?ちゃんと全部良い結果に繋がらないの?不安だ。私の行く末じゃなくて、この国が。


扉が開き何やら白いものが入ってきた。


「三号館のスクリーンの画質が悪い。変えろ」

「は、はい!しばしお待ちをっ!」


第一声がそれなの、とつっこむ暇も勇気もなく、私は飛び起き姿勢を正し髪の毛を整えた。

なんで、今このときに、このタイミングでこの人が来るの?内部通信でいいじゃん。うげぇ、こっち見んなよ。近づくなよ。見下ろすなよ。

助けを呼ぼうと室長に目を向ければ、電話中。


「どんぐりピエロにべったりだな」


はて…?どんぐり、ピエロ?それは室長のこと?あ、瞳の形のことかな。
またいきなりご挨拶なことを、と思ったが下手に何か言えばまた何か言われるだろう。ただ、そうですね、と軽く返した。
プラシド長官は私を無視して室長に体を向ける。


「まだか?」

「た、ただいま終わりました!明日には修理に来ていただけるかと」

「遅いな。今日中になんとかしろ」

「いや、それは…な、なんとかいたします!」

「……」


驚いた。あの室長が長官に対してへこへこしてる。腰が低い。低すぎる。しかもゴドウィン長官のときには溢れていた気品が微塵も見られない。こんなの室長じゃないってくらい変だ。滑稽だ。まさに道化、じゃなくて…室長おもしろ。意外と可愛らしい面がある。
室長をここまでにさせるプラシド長官はやっぱりプラシド長官様だ、と複雑な心境で長官様が無言で出ていくのを尊敬の眼差しで見送った。

あまり馴染めそうにはない人だけれど少し長官の印象が変わった瞬間だった。






変化
「何をニヤニヤしてるのです!」「いえ…別に。そういえば、さっき書類出してくださればよかったのに」
「ぬぬ!この私にあのタイミングでだせというのですか!?空気の読めないこのお馬鹿さんめ!」
「な!馬鹿って…!」
「いいですか?今のあなたに足りないのは空気を読む能力です!」
「空気は読むものじゃなくて吸うものです!じゃあ自分でだしてきます!」


(室長から訂正した書類を引ったくってプラシド長官様に渡せば「いいだろう」と怪しげな笑みを浮かべた。一応受け取ってはもらったので仕事を終わらせ安心して帰ったら家が無くなっていた)

「なじぇ…?」



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