入社して今日でちょうど一年。一人だけおまけで後から足された補欠合格者みたいな扱いだったけれど、室長(室長がなんと副長官に格上げしたけど室長って呼んでいる)からは信用を得られるようになってきたし、友達も増えたしで、私主催のパーティを開くことにした。何よりこのパーティーの真の目的は消息不明になったゴドウィン長官閣下との決別の意味もある。 ゴドウィン長官閣下が消息不明になってからというものなんだか寂しくて、書類処理をしながら時々長官閣下のことを思い出して泣くことがあった。閣下不在の部屋は時々室長がこっそり使うときもあったけれど、ずっときれいに掃除をしておいて閣下の帰りを待っていた。だけれどついに新任長官が来週頃来ると聞いた。そうだ。閣下はもう消息不明扱いでいつまでも空位なわけにはいかないのだ。ずっと引きずってはいられない。新しい気持ちで迎えなくては。
やっとそのことに気づいた私は決別のために、そのついでに一周年祝いにパーティーを開くことにしたわけだ。
そんな思いを抱きつつ大きなスクリーンにソファーがある客室を借りて飾り付けをしていた。皆まだかなー。早く誰か来ないかなー、と時々入口を見るもそんな気配はなかった。まあこの半年道路整備や新しい法作りかなんかで書類処理がとんでもなかったから仕方ないといえば仕方ない。皆忙しいんだ。他ならぬ私も忙しいわけだけど今日は特別である。パーティーの後に一気にやればノルマは終わるだろう。人間死ぬ気でやればなんでもできる、というやつだ。しかし室長は相変わらず人一倍忙しいようで電話はでてくれず、一応留守電入れておいたけれど未だに返事がこない。昨日室長にパーティー開くとは言ったけど時間を言っていなかったから些か不安である。というか、それ以前に室長がこのパーティーを許してくれるかどうかどっちつかずだ。前までなら文句たらたらの室長だったけれどこの半年で少し変わり、仕事さえこなせばあまり(あくまで【あまり】)言われなくなった。それ故このパーティーは一種の賭けだ
。変わった室長はこのパーティーを許してくれるか否か。もちろん止めなさいと言われて止める予定は皆無だけれど。

コツコツと室長特有の歩く音がした。その音が近づくにつれ胸が踊った。室長が来てくれるんだ!脚立から下り、飾りのムースを持ったまま扉の開けっ放しの入口を見つめた。音は大きくなっていくが小さな複数の足音もまた遠くから聞こえてくる。他の人も向かってくるのだろう。
期待通り入口に赤と白の影が飛び出した。


「な、なんですかこれは!?」

「しつちょー、遅いですよー」


あはは、と笑っていると、三人の怪しい人たちもが入ってきた。三人共頭から爪先まで真っ白な衣装に身を包み、大中小と並んでるあたりちょっと怪しい。衣装からしてもしかして宗教がらみの人かな?それともコスプレイヤー?あ、室長がサーカス仲間を呼んでくれたとか?


「あら。お客様ですか、副長官?」


いつものように顔を作り、言葉を飾り室長に聞いてみた。


「そうではなく…ええい!だからなんですかこれは!?」

「ふふ。昨日申し上げたじゃないですか、催しものですよ。では今から放送で友人を呼んできますね。あ、お客様達もどうです?」

「…他の部屋はないのか?」


若いけれど深みのある良い声だ。20代くらいだろうか、中くらいの人がそう言うと室長は頭を下げ「直ちにご用意を」というとあの特徴的な走りで行ってしまった。
見たところ大事なお客様のようだ。これは丁寧に対応しなくては。
三人を見れば三人共私を見ている。フードが深い所為で目は見えないがどうしても睨んでるようにしか見えない。
気まずい。非常に気まずい。室長がいなくなってから漂うこの空気は重く口も開きにくい。
ふと、一番小さい子に注目すると天兵と同い年くらいの身長だ。もしかすると同期だったりして。そう思うと気分が軽くなる。それでも大きい人の孫だろうから、気をつけて話しかけよう。


「ボク、ジュースを召し上がられますか?」


手でテーブルに乗ったペットボトルの飲み物を示した。もちろん自前のジュースだ。


「僕に気安く話しかけんなよ」

「え」


子供特有、いや、それ以上に高い声で冷たく言い放った。
なにこの子、と思うのと同時に私の脳内で、「僕に気安く話しかけんなよ」とリピート再生される。
天兵はあの年で少し人見知りをするけれどちゃんと挨拶するし、年上の人には礼儀正しい。なのにこの子は…家の環境が悪いのだろうか。


「ルチアーノ」

「ふんっ」


おじさんの一言でまた空気が重たくなった。おじさんがこれなら、孫がこうなのは親の所為か、と自己解決した。
ルチアーノという名前か。どこの国だろうか。イタリアやスペインのラテン系かな。
そうだ、子供を優先するのも大事だけれど年功序列、一番大きく年寄りのおじいさんにもお茶をすすめなきゃ。


「おじいさま、昆布茶でもどうですか?」

「……」


また痛い沈黙が漂った。



その後、戻ってきた室長は三人をどこかへ案内した。あの重苦しい空気から解放された私は、仕方なく室長抜きで友人達を呼びパーティーを開いた。この半年の間に昇格した人に祝を告げ、逆に祝を告げられ、ゴドウィン長官閣下との決別を心内でし、なかなか充実した。しかしそれもつかの間のことでこの後驚くべきことを告げられる。






決別
「室長、さっきの誰なんですか?」
「あなたときたら…!昨日言った新任長官です」
「へ?そんな…聞いてないですよ!」
「では今いいました」



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