誰にも会いたくない気分だけど 、何か気を紛らわすものを探したくて多くのショップが立ち並ぶ道を歩いていた。鞄がない上、もう19時過ぎで辺りが暗いため制服のままショップに入るのは気が引けて同じ道をいったり来たりしていた。
夜になると幾らか寒くなってきて、置いてきた鞄にマフラーを入れていたのを思い出して後悔した。

そろそろこの街道のショップに飽きたのでもう一つ隣の街道に入り、ウィンドウショップを楽しむことにした。雑貨屋、有名ブランド店を幾店舗通りすぎた辺りでポップでファンシーなお店が目を引いて立ち止まって見いってしまった。ショーウィンドウにはハートや星形の風船が大量に詰められていて、中央手前には同じ色のぬいぐるみのクマさんが何体もピンクのソファに一列に座っている。


「可愛い…」


思わず一人で呟いてしまう程クマさんが可愛かった。瞳の色だけは個々に違い皆可愛いけれど、特に真ん中に座る、灰色みがかかった青の瞳のクマが目を引いた。


「俺が買ってあげようか?」


急に甘く優しい声で話しかけられ、一瞬カイト君かと思って、飛びあがりそうになりながら振り向いた。
そこには20代後半くらいの小綺麗で背の高い人がにこにこして立っていた。
私の知らない人で、しかも男の人だから怖くてすぐに体を背けた。

「ごめん。驚いた?あのぬいぐるみ欲しそうにしてたから、買ってあげようかなって思って声かけたんだけどー」

「いいです…」


俯きながら、急ぎ足で男の人がいる方向とは反対の方に進んだ。さっき来た方とは逆だけど、遠回りでも帰ることにした。
だけど、男の人はしつこく声をかけながらついてきた。嫌だ。怖い。
十字路にでて、ぱっと右に曲がった。曲がってすぐに、次のブロックで右に曲がれば駅への道のはずだった。だけど、方向を間違えたみたいで右へ曲がった先は一通りの少ない路地だった。
やっちゃった。まだ男の人が付いてくるようなので戻ることもできずにそのまま早歩きし続けた。この際駅じゃなくても早くお店に入って、逃げなきゃ。
後ろで急に走り出す音が聞こえて私も走りだし数歩進んだところで追い付かれて腕を捕まれてしまった。
振り向くと男の人はまだ笑った顔をしていてそれが一層怖かった。


「ちょっとお茶しない?10分だけでもいいからさぁ」

「あ、あ…」


怖くてまともに声がでなくなってしまった。誰かに助けて欲しかった。ショップが立ち並ぶ道の一本隣だというのに人通りが全くなくて、身の危険を感じた。
助けて、と思い浮かぶ顔は唯一私を想ってくれるあの優しい人だった。



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