「カイト君っ!お待たせ!」
「ああ。勉強お疲れ様」
放課後直ぐに校門まで小走りにいくと、カイト君は腕組みを解き、私に手を差し出した。私は笑顔でカイト君の手をとり歩きだした。
「今日は何を勉強したんだ?」
「えーとねー、数学と英語と…あ、なんかね数学で変な数式でてきてわかんなくなっちゃったの!」
「俺が教えてやろう。今日も俺の家に来るんだよな?」
「うん。行くよ。ありがとう」
こんなやり取りをしている最中、後ろからオートバイの音が聞こえてきて、車道側を歩いていたカイト君は私の側に寄って、カイト君との距離が近くなった。
だけれど、オートバイはカイト君の横で止まった。びっくりして、カイト君と一緒に立ち止まって見るとなんとオートバイの運転手は凌ちゃんだった。私は咄嗟に手を離してしまい、後悔した。カイト君が一瞬驚いた顔をしたからだ。凌ちゃんから声を掛ける間もなく、カイト君は私を守るように両腕を横に広げ、「誰だ?」と凌ちゃんに尋ねた。
「突然悪い。後ろの女の友人だ」
「ただの友人が何の用だ?」
「話がある。数分でいい。話させてくれ」
カイト君は私を振り返り心配そうに見つめた後、数秒なら、と承諾した。
私は凌ちゃんに引っ張られ道の端で向き合った。カイト君にあまり聞かれたくないみたいで、顔を近づけて小声で話し始めた。カイト君がいる前なのに、凌ちゃん何のつもりだろう。
至近距離の凌ちゃんにドキドキしているのか、カイト君の反応が怖くてドキドキしてるのかわからない程ぼーとしてしまった。
「最近会わないよな。電話にもでねーし。避けてんのか?」
「違うよ。たまたまだよ。クラス一緒じゃないし」
本当は違わなかった。凌ちゃんと会うのはカイト君にも凌ちゃんの元カノにも悪いし、何より泣いていた所を見られた後で会うのは気が引けた。
「それならいいが。それはそうと、この前のこと悪かった」
「え?」
「おまえが泣いてんのに助けられなくて…」
この前、つまり凌ちゃんの元カノとの出来事のことを思い出した。そんなこと別に謝らなくてもいいのに。困ったな。
「あまり気にしてないからいいよ」
本当に気にしてない風を装って優しく言ったつもりだった。なのに陵ちゃんは目を細めた。
「あいつがいるからか?」
カイト君に視線を向け凌ちゃんは囁くように言った。私も釣られてカイト君を見ればこっちを睨んでいた。ああ、早く会話を終わらせなきゃ。
「うん。私にはカイト君がいるから大丈夫なの。もう、カイト君が待ってるからいい?」
「あー…まあいいか。じゃあ明日から学校で避けんなよ。またな」
凌ちゃんはまだ何か言いたげだったけれど、諦めたのか私の頭に手を乗せぽんぽんしてきた。突然のことに驚いたけれども、手を振ってカイト君の元に寄った。凌ちゃんはヘルメットを被り、オートバイに跨がって行ってしまった。凌ちゃんが行ってしまった方を見つめながら、さっき触られた頭を手で触れた。触られたときの感覚が残っていて、言葉ではいいあらわせないむず痒さが生じた。もっと触って欲しかったと思ってしまいはっとした。どうしよう…やっぱり、凌ちゃんのことがまだ好きかもしれない。
カイト君は再び私の手をぎゅっと握り引っ張るので、我に返ってカイト君についていくように歩いた。カイト君は黙ったままだった。たまに、カイト君は険しい顔で黙りこむのだけれど、今日はいつもと違った。何か雰囲気が怖い。
カイト君の自宅に着き、家に上がらせてもらうとカイト君はばっとこちらを向き腕を捕んできた。
「来い」
「カイト君…?」
何がなんだかわからず怖くて私は何も言わずについていった。洗面所の扉を開けたかと思うと、お風呂場を指して「入ってこい」と言われた。
「どうして…?」
「頭をしっかり洗ってこい」
バスタオルを放り投げ、カイト君は出ていってしまった。私は唖然として受け取ったバスタオルとお風呂場を交互に見て、意味もわからないままシャワーを借りることにした。
シャワーを浴びながらカイト君のことを考えた。自惚れかもしれないけど、カイト君は嫉妬してるのかもしれない。凌ちゃんが私にあんなことをするから。
毎日学校まで迎えに来るようになっただけでもカイト君に負担になるというのに、この一件でもしかしたら朝まで学校に送りに来そうだ。カイト君は仕事と入院中の弟ハルト君のお見舞いで忙しいというのに。