I miss you.



夜風が冷たいこの広い部屋で貴方を待つのは、まったく…何回目でしょうね。
泣き疲れて寝た日もあった。起きていて後悔した日もあった。そしてなにも感じなくなった日もあった。





私のご主人、アーサー様。
ご主人といっても、家政婦や執事のような綺麗なものではない。もっと狭く、深いところで混じりあった関係。…体だけの汚い関係。
アーサー様は最年少で、といっても23歳ですが、大手貿易会社の社長でいて、麻薬売買会社も営んでいる。つまり、表でも裏でも重要な人物だ。
そんな常識離れした方と一緒にいるのは、なぜだか知らない。知らないけど、たまに夢に見ることがある。

その夢では、東から来た船に私は乗っていて、そしてなぜか私はその船員たちから特別な扱いを受けていた。
英国に着いた船は、2日間は動かなかったと思う。不安で、…なにが不安なのかわかりませんが…船の外を覗くと、この船の船長らしき人と金髪で眼帯をした綺麗な人が言い合っていたのを見た。

『…っ高すぎ…安く…ある』
『…知らねぇよ──ってのはどうだ?』
『っ馬鹿か!?──は、ひど…』

雨の音と遠くにいたせいで雑音が交ざり、よく聞こえなかったが、この船の船長は明らかに形成不利だった。
寒い、部屋に戻りましょう。
蝋燭の灯る暖かい部屋に体を預けようとした、そのとき。

『──!!』
『!?…ダメある!!』

──…
何度も夢を見た。
2年前の、アーサー様に拾われたあの日から、記憶を失ったあの日から、何度も何度も、大切ななにかを思いだせ、といわれているみたいに。
いつも夢はそこできれて、私にはなにがいいたいのかはよくわからない。わかれない…。
拾われた私は、すぐに英語を覚えた。アーサー様に迷惑をかけたくなかったから。優しく指導してくれたアーサー様や、ご友人のフランシス様のおかげなのですが…。

楽しい日々が続いた。
英国を学び、貿易を学んだ。いろんな方と触れ合った。
感謝の気持ちもこめて、私はアーサーさんの役に立ちたかった。秘書でも雑用でもなんでもこなせる自信はあったから。それなのに貴方は

「傍にいてほしい」

といった。真剣に、目をみながら、私に優しく囁いた。
夜の暗闇に飲み込まれ、私達は愛し合った。何度も何度も、数え切れない程に、アーサー様は優しく私を抱いた。
その手に触れられ、感じさせられ、その声に囁かれ、照だされ、愛おしい、愛おしい、と心から思った。
一生、貴方の傍にいます、と誓った。

なのに、貴方は…

いつだったか、貴方は女の香りをつけて帰ってくるようになった。最初は気にしなければいいでしょう、と自己簡潔したが、それでも愛とは恐ろしいもので、ある夜に一回だけアーサーさんの仕事場を覗き込んだ。

『アーサァ?今日も抱いてくれないのぉ?』

甘ったるい、女の声。

『黙れ、今は仕事中だ』

否定はしないアーサー様。

『あぁん、つれない!仕事終わるまでまってるわよー。仕事終わってストレス溜まったアーサーが一番激しいんだもの』

すべてをしっているかのような、女の口調。信じません。この人はたぶん仕事仲間で、冗談が大好きな人で…。
自分を落ち着かせるが、それは無理で目からはとまらないほどの涙が溢れるだした。

悲しい、この場にいたくない。だけど、いくあてもない。
知らないフリを突き通しても、心は虚しくなるばかりで…。


泣き疲れて寝た日もあった。
(あの夜、見に行かなければよかった)

起きていて後悔した日もあった。
(女の匂いと、嫌に上機嫌なアーサー様)

なにも感じなくなった日もあった。
(私を抱いてるときだけは、ちゃんと私をみて下さいね?)

 それだけで、いいですから…。


時刻は午前2時過ぎを指す。

おやすみなさい、アーサー様。

(隣にはいないけど、

今日も貴方を想っています)

      I miss you.