どうせ殺されるなら、彼に殺されたい。
私はいつからかそう思うようになった。仕事柄、醜い死に方をする輩をたくさん見てきた所為か私はせめて私を私らしく殺してくれる人から殺されたい、なんて夢見たことを考えていた。
実際そんな人はなかなかいないし、無理だと諦めていた時にボンゴレの暗殺部隊からスカウトされたので、普段だったら蹴っていたスカウトを思いきって受けてみた。きっとここならば、私を殺すのに相応しい人がいるはずだと私は期待で胸を膨らませていた。だが暗殺部隊とは言えども私をゾクゾクさせてくれるような人は現れてくれない、と諦めていた時に任務が入り、彼と一緒に組むことになった。
つまらないような単純な任務を彼は実に無邪気にこなしていく、私は彼から目が離せなくなった。血溜まりの上で、真っ赤な血液が付着した黒い隊服が私の目にはとてもとても美しく見えたのだ。
「なまえ」
「ベルはとても綺麗ね」
「は?」
「ターゲット達が羨ましい」
私がそう呟くと彼は不思議そうに首を傾げていたのを覚えている。私はこの日から彼になつくようになった。任務がない日は一日中彼の部屋にいた、別に一日中部屋にいても彼は私に何もしないし私も何もしなかった。
だからだろうか、ある日彼は私に訊ねてきた何故部屋に来るのか?と。私の答えはただ短くはっきりとしていた。そう、私の答えは殺されたいから、だった。私の言葉を聞くと彼は声を出して笑った。
「なまえ面白いな」
「本気だよ」
「しししし、オレなまえのこと気に入った」
「殺してくれるの?」
「さあな」
彼の曖昧な返答を私は自分の都合の良いように解釈した。彼は私をそのうち、あのターゲット達のように素敵に殺してくれるって。
でも、彼は私を殺してくれなかった。次の日もその次の日もそのまた次の日も、いくら待とうとも彼は私を殺してくれなかった。私は彼から殺されたいと初めて思った、あの日からもう約十年が経とうとしていた。
「ベールー」
さらさらのストレートヘアーだった彼も今じゃ髪の毛ふわふわだ。隊服のデザインも変更されて、新入りが入って、季節はどんどん過ぎていくのに彼は私を殺してくれない。
「なあに、なまえ」
「退屈、殺して」
「……やぁだ」
十年前は断らなかった彼も今では冷たく断る。
「意地悪」
「オレはなまえとこれからも生きてぇの」
それと、彼は私と生きたいと言ってくるようになった。そんな言葉言われたことのない私は最初にものすごく戸惑ったが今じゃ少し慣れてきた。それに今ではとても嬉しく感じる、この気持ちを彼にどうすれば伝わるだろうか。
「ねえ、ベル」
「んー?」
「殺して」
「お前人の話聞いてねーだろ」
「あのね、……今までの私を殺して欲しいの」
「…今までの?」
「それで、今までの私が死んだら新しく生まれ変わった私はベルと生きてくの」
「要するに過去とおさらばしてぇわけ?……それなら、いいぜ」
殺してやるよ、ずっと聞きたかった台詞。彼はナイフを一本持つと楽しそうにナイフを舐めた。
さあ、早く私を殺してよ!
彼は私の髪の毛を切ると私の頭を優しく撫でた。ああ、彼は私を殺したのだ。
さよなら今までの私、こんにちは新しい自分よ。
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