※不純異性交遊が禁止になった頃の話
今日の天気は雨。せっかくの休日だというのに空は厚い雲に覆われている。しかし、森園は彼女に会うためにいつも待ち合わせで使う喫茶店に居た。待ち合わせには早い時間だが本を読みながら彼女が来るのを待っていた。時計の針が待ち合わせ時間の五分前を指した頃、喫茶店の扉が開いた。デートだというのにこの世の終わりの様な顔をした彼女が店内へ入って来た。
君の表情と空模様「億人さん、こんにちは」
「こんにちは、少し雨に濡れましたか?」
彼女が席に着いて、本来ならば他愛もない話をしたりするのだろうが彼女の表情は暗いままであった。
「ええ…でも大丈夫です
それより、あの、億人さん…」
「一体どうしました?」
「私、噂で聞いたんですが…その、あの、海帝で」
「そのことですかですか。とりあえず落ち着いてください、温かいものでも飲んで」
彼女にそう言うと森園は店員に温かいミルクティーを注文した。雨の中来るのは体が冷えたでしょう、と彼女の手を握った。
「え、億人さん!?こんなことして」
「フフッ、大丈夫ですよ」
彼女が気にしていたのはこの間に海帝高校で決まったことについてであった。つまり、不純異性交遊の禁止が生徒会規則に入れられてしまったことである。
「え、私といるといけないんじゃないですか?」
「僕は君との付き合いを不純とは思っていませんよ」
「どういうことです…?」
「とにかく、君は気にしなくて良いと言うことですよ
ほら、ミルクティーが来ました」
彼女は首を傾げながらも運ばれてきたミルクティーに口をつけた。彼女は猫舌なのかちまちまと飲んでいる。その様子を森園は笑みを浮かべながら見つめていた。
「お、億人さん?何で、私のことをそんなじーっと見てるんですか」
「なまえさんがあまりにも可愛らしいからですかね」
「なんですか、もう…っ」
頬を真っ赤に染めている彼女が拗ねた風に顔を横に逸らした。その仕草を見て、森園はますます彼女を愛しく思っていた。表情がまるで空模様のように変わる彼女を眺めるのは飽きない。泣き顔も、怒った顔も、笑った顔も、そして今のように照れて頬を赤く染めた顔も全てが大切だと感じていた。そして、眺めているうちに森園は初めて口付けをした時も彼女が今以上に頬を赤く染めていたことを思い出した。
後で店を出たらその話をしてみよう、そしてまた頬を染めた彼女に不意打ちで口付けをしたらどうなるだろうかと考えていた。
「…この考えは不純ですかね」
森園がそう小さく呟いた言葉は彼女にも聞こえずにいた。
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