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 彼との出会いはいつだっただろうか。もう覚えていない。
初めて話した時はどんな話をしたのだろうか。そんなことを今更思い出せる訳じゃないけど、私は必死に思い出そうと頭を働かせた。
きっと、いや絶対こんなに頭を使うのは定期テスト前の数学の授業中くらいじゃないだろうか。
彼に関わる事なら頭を使うことも苦ではないと知ったのは去年の春だった。

 一年生の時はクラスが同じだったのに、二年生になってクラスが離れてしまった時の事だった。いくら同じ学年でクラスが同じ時は結構話していたけれどクラスが離れてしまってからは私の方から話しかけるのが怖くなって話し掛ける事が出来なくなってしまったのだ。

 頭の中ではいろんな自分が作戦会議をしているかの様だ。
話しかけても平気だろうか。嫌がられたりしないだろうか。そんな不安が頭の中に過る。
廊下で会っても軽く会釈をしてお互い黙ったままで考えたら二年生になってから話さないまま三学期が終わろうとしている。
このままでは駄目だと分かっている、分かってはいるけれどなかなか実行に移すのは難しい。

 もし、三年生になってもクラスが違ったらこのまま一生話せないままなのだろうか。そんなのは嫌だ。
だから今日は勇気を出して彼のクラスの教室まで向かった。向かったのだがあと一歩踏み出す勇気がなくて結局教室へは足を踏み入れることができなかった。

 私は自分のクラスへ帰ろうと思って後退りした、その時窓際で友人たちと楽しそうに会話をしていた彼がふと此方に視線を向けたので目が合ってしまった。
ほんの一瞬の出来事だったけれど私にはとても長く感じた。私は逃げるようにその場から立ち去った。この時間には滅多に人の来ない渡り廊下まで来ると私はその場にしゃがみこんだ。

 絶対変な奴だと思われた。彼と視線が合って驚いてあの場から逃げ出したのもあってもう一回彼のクラスまで行こうとは思えない。
目が合ったのなら話し掛ければ良かった、今更後悔しても仕方がないのだと分かっているけれど私は落ち込まずにはいられない。

 深く溜め息を吐くと彼の顔を思い浮かべた。
彼は私のことなんて、何とも思っていないのだと分かってはいる。
だから今更どう思われても、変わらないじゃないか。
こんなところで一人落ち込んでも良いことなんかない。
そう思って立ち上がったその時だった。
足音が聞こえてきて、段々と音が近付いてきて気になって振り返るとそこには彼がいた。

「ここにいたのかみょうじ」

「え、あっ、何でどうして」

「さっき俺のクラス前に来てただろ、目が合ったと思ったらお前走って逃げるから心配しただろ」

「ごめんなさい」

私が謝ると彼は謝らなくていいけどよと小さく呟いた。そんなこと言われても私としては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。だって彼はわざわざ私を追いかけて来てくれた。

「そういや話すの久しぶりだな」

「うん、そうだね」

「一年の時は散々話したのにな、二年になってクラス離れてからはその、何て言うか話し掛け辛かった…悪い」

「…私も、同じだった」

「…そうか」

面と向かって話すのは久しぶりな為、私は緊張して目線を少し下へと落とした。
このままじゃ何一つ変わらない、折角のチャンスなのに。これを逃したら次話せるのはいつになるのか分からない。

「岩泉、あのさ」
「みょうじ」

私が勇気を振り絞って出した声は彼の声と被ってしまい、私たちは苦笑を浮かべた。

「岩泉からどうぞ」

「みょうじから言えよ」

「いやいや岩泉から」

私がそう言うと彼は一回咳払いをしてから
「来年度は同じクラスだといいな」と小さい声で言った。

ああ、私と思っていること一緒だったんだと思うと私は、つい吹き出してしまった。

「なっ、みょうじお前」

「だって、私が言おうとしたことと同じなんだもん」

 私がそう言うと彼も吹き出して、二人して声を出して笑った。
するとタイミングが良く休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いたので私たちは慌ててそれぞれの教室へと戻っていった。

クラス替えは来月、何故だか絶対に彼と同じクラスになれるような気がした。
 



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