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 好きな人に数ヵ月前に彼女が出来た。
仲良いなとは思っていたけどまさか本当に付き合うなんてね。
しかもその彼女は私の友達だった。
彼女が彼に好意を寄せているのは彼以外は結構気付いていて周囲が彼女を応援するもんだから私は彼に気持ちを伝える事が出来なかった。
二人から付き合う事になったと聞いた時は不思議と泣かなかったし悲しくなかった。
だけど二人におめでとうと言った私の顔は上手く笑えてなかった気がするの。
あの日は、学校から家に帰って自分の部屋に入った瞬間ぼろぼろ私は泣き出した。
確か次の日が土曜日で思う存分泣いて目が腫れたとしても誰からも心配などされずに済むからだ。
月曜日は地獄だった幸せムードに包まれた二人を見るのが辛くて何度顔を背けたことだろう。
でも今じゃ私も大分慣れてきたのだろうか。

「なまえ、聞いてよ蛍が」

「…そっかあ大変だね」

 友達から毎日のように聞かせられた所為か惚気られても今じゃ何とも思わない。
デートの話とか帰り道でのこととか幸せそうな二人の話。
少し胸が痛む時もあるけれど気にしないようにしている。
私はもう彼を好きではないのだからと思い込もうとしている。
だからきっともう少しで大丈夫になるはずだ。

「みょうじが退屈そうだからその話もう止めたら?それにもうすぐで授業始まるけど」

 先程まで居なかった彼が教室へと戻って来ると一人だけクラスが別の彼女にそう言った。
彼女は驚いて時計を見ると彼にお礼を言ってて慌てて自分のクラスに戻って行った。

「みょうじよく飽きないよね、僕なら無理」

「月島、あんたねぇ」

 私は溜め息吐きながら彼から視線を逸らし窓の外を見る。
今日はそう言えば午後から雨の予報だとテレビのお天気キャスターが言っていた。
けど折り畳み傘が鞄の中にあるから雨が降っても私は大丈夫だ。
でも彼女はきっと傘を忘れて彼に助けを求めにくるだろう。
だってもう何回も同じような光景を見せられてきた為か彼女の行動パターンが私には分かる。
きっと明日になったらまた惚気話を聞かされるのだ。
覚悟していないといけないな。
そんなことを考えながら先生がやって来るのを待つ。
きっとあの先生の事だ、五分遅れてやって来るに違いない。
私は制服のブレザーのポケットから携帯を取り出すと再び溜め息を吐いた。


「…みょうじ」

「なあに?」

 彼から名前を呼ばれ面倒臭そうに彼の方に目をやる私に彼は箱を投げ付けてきたので慌ててキャッチする。
彼の行動に対して怒ろうとキャッチした箱を投げ返そうとしたがよく箱を見てみると私の大好きなクッキーの箱で私は驚いて彼に視線を向けた。

「これ、なに」

「ん、一昨日誕生日だったでしょ?だからプレゼント」

 そう言って彼はにやにやと口許を緩め私の頭を撫でた。
そう一昨日は確かに私の誕生日だった。
一昨日は土曜日で一部の友人からはおめでとうとメールでお祝いされたのだが彼からは祝われなくて私は少し落ち込んでいたのだが月曜日になってこんな風にお祝いされるなんて心臓に悪い。

「ありがとう」

「僕の誕生日に倍返ししてよね」

 僕が誰かを祝うなんてレアなんだから、とぼそり呟いた彼を見ていると何故だか胸が締め付けられるように痛む。
彼にときめいてしまう自分が嫌で、でもこんな風に祝われるのは嬉しくて頬が熱を持ったかのように熱くなる。
それに何だか鼓動が早くなってくる。
まるで私まだ彼に恋してるみたい。
でもこんな感情早く忘れてしまわなきゃ。
彼は私の友達の恋人なのだ。
もう彼にときめいたりしたらダメだ。
理解しようとすればするほど私の胸は締め付けられる。
喉元まで出かかった言葉を飲み込むと私はいつものように彼を見て微笑んだ。

「ばーか、倍返しなんてしないわよ」

「うわ、言うと思った」

「じゃあ私にそんなこと言わなきゃいいじゃない」

 今はこのままでいいんだ。
伝えるならば彼と彼女が別れた時にでも思いを伝えれば良い。
だから今は我慢しててね、私の恋心。
 



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