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“消しゴムに好きな人の名前を書いて使いきると恋が叶うんだって!”

 今時小学生でもやらなさそうな恋のおまじないを高校生の私は只今実践中である。効果なんかないってわかってはいる。だけど叶わなそうな片思いをしているからだろうか、普段なら絶対しない“おまじない”に手を出してしまった。
私が思いを寄せているのは同じクラスで隣の席の月島くん。同学年の女子から密かに人気がある。そんな彼に私は挨拶くらいでしか話し掛けたことがない。彼のまわりにはいつも山口くんが居るし、居ないときはヘッドフォンで耳を塞いでいる。だから、私を含め彼に思いを寄せている女子は誰も話しかけた子がいない。
私としては見ているだけでも幸せなんだけれど少しはくらい話せたらなぁ、とはよく思う。

「つ、つ、月島くんおはよ」

「…ああ、おはよ」

 しかし、朝の挨拶が交わせただけで喜んでいる私にはそこから先の言葉が出てこないから仕方ない。せっかく、隣の席なのに勿体ない!と友達から言われまくったから、おまじないに逃げて助けを求めたのが効果が出る気配はない。
まあ、当たり前なんだけど。
私は溜め息を吐くと筆箱に入ってる消しゴムを取り出して見つめる。
消しゴムに彼の名前を書いたがこれ落としたらかなり恥ずかしい思いをするぞ。私は消しゴムをぎゅっと握り締めると隣の席に座って音楽を聴いている彼に視線を向けた。もし本人に知られたら、なんて考えただけでも恐ろしい。私は溜め息吐きながら机に顔をうつ伏せた。

「…みょうじさん、大丈夫?」

「えっ、あ、はい」

 彼は心配そうに私に話し掛けてくれたのだが私は嬉しさと驚きのあまり、ついつい冷たい返答になってしまった。
滅多にないチャンスだったのにな、と私が落ち込んでいると彼はヘッドフォンを外して私を見つめてきた。彼に見られていると理解した瞬間から私の頬は熱くなっていった。だって、まるで夢のようなんだもの。

「顔赤いけど?」

「えっそんなことはないです」

「みょうじさん、さっきから消しゴム見ながら百面相してたけど消しゴムがどうかしたの?」

見られてた。どうしよう私そんなに表情可笑しかったのかな。恥ずかしいところを見られてしまった。消しゴムの文字を見られてないのが唯一の救いだ。

「な、なんでもない」
「そう?」
 
 彼は納得がいってなさそうだったけれど追求はしなかったので私は胸を撫で下ろした。
その瞬間だった。ひょいっと私の手元にあった消しゴムが彼の手元へと移動していた。

「つ、月島くん!」

「みょうじさん、もしかして今どき消しゴムに好きな人とか書いてるわけなの?」

彼はそう言うとクスクスと笑った。私は彼から言われたことが図星だったため何も言い返せずにいた。

「みょうじさん真面目そうなのにこんな子供っぽいことやるなんて意外」

「月島くん、消しゴム返して 」

「誰の名前書いてあるか見てから返してあげる」

 そう言って彼は私が必死に止めるのを無視して消しゴムに書いてある名前を確認した。
さらば、私の淡い恋心よ。
私の恋はたった今ちゃんとした告白もしないまま終わってしまった。短い恋だったな。
私の脳内は完璧にお通夜モード突入。
告白も出来ないままフラれるのは嫌だったのに。私は涙目になりつつある目を擦った。
そして、私は彼の表情を見るのが怖くて俯いた。だが彼がいつまでも喋らないので恐る恐る顔をあげた。
彼は頬をほんのりと赤い色に染めて、口許を手で隠していた。まるでどこか恥ずかしそうにだ。

「月島くん」

「みょうじさん狙ってたワケ?」

「違うよ」

「みょうじさんは趣味悪い」

「知ってるよ」

 彼はああ、もう… と呟くと私のことを見つめてくる。
この反応は期待してもいいんだよね?
私と彼は先生が来るまでお互いを見つめて黙り込んだままだった。
 



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