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「なにがヒーローよ…」
自分しかいない部屋で私は呟いた、今日は私の誕生日なのに彼は急用が出来たとかなんかで“今日は来れないかも”とさっき電話がきた。彼は普通の人ではないし、色々と大変なのもわかる。だけどやっぱり辛い、誕生日おめでとうの言葉すら言われてないのに。

私はそばにあった、ぬいぐるみをぎゅうっと抱き締めた。ちなみにこのぬいぐるみは二人でショッピングしてた時に私が何気無くショーウインドウに飾られていたぬいぐるみを見て、わぁー可愛い!なんて呟いた事を彼は覚えていたらしく去年の誕生日に彼が満面の笑みで“君が欲しがってた、cuteな物をプレゼントするよ”と言って私にプレゼントしてくれたとても大切な物だったりする。彼には内緒でぬいぐるみに、名前まで付けていたりする、ちなみに名前はあーちゃん。もちろん、あーちゃんという名前は彼の名前から…と言うのは彼には絶対秘密だ。

ぬいぐるみを膝の上に置いたまま私はテレビでも見ようとリモコンで操作して電源を入れた。テレビに映されたのは最近流行りの恋愛ドラマ、私はこういうのを普段見ないのだがまあ今日は退屈だし…と思いなんとなく観ることにした。

恋愛ドラマを観て数分経ったがまだ飽きたりはしない、どうやら内容は主人公とその恋人が些細なことで喧嘩をして仲直り、というよくある恋愛ドラマと然程変わらない。ドラマも終わりに近付いた頃、ふと時計を見たら23時43分私の誕生日もそろそろ終わりに近付いた。テーブルに放置していた携帯を確認したが着信はゼロ、心の中で彼からおめでとうを聞けるんじゃないかって期待してたから少しショックを受けたがまあ彼は忙しいんだから仕方ないと自分に言い聞かせ携帯を再びテーブルに置いた。

その瞬間だった、ピンポーンと来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。ドキッと胸が高鳴る、もしかしたら、もしかしたら…
私は駆け足で玄関まで行くと勢いよくドアを開けたら、ガンッと何やら鈍い音が聞こえたので私は驚きながらも恐る恐る確認すると痛そうに鼻を押さえてる彼が居た。


「あ、あ、アル?」

「君、勢いよくドアを開けるのはやめた方がいいぞ」

彼はそう言うといつものように笑ったがよく見ると彼の目にはうっすらと涙が…

「ごめん」

「謝らなくてもいいさ、ヒーローはこんなの全然痛くないんだぞ」

今にでも泣き出しそうになってる私をあやすかのように優しく頭を撫でると彼は「ところでそろそろ中に入ってもいいかい?」と訊いてきたので私は無言で頷いた。




「ギリギリセーフってとこだね」

彼は私の部屋に入ると真っ先に時計を見てそう呟いた。時計の針は23時50分、私の誕生日が終了するまでまだあと10分あった。

「今日は来れないんじゃ…」

「あぁ、それは君を驚かそうと思って吐いた嘘だぞ」

「えっ」

「Happy Birthday,なまえ」

彼はそう呟くと驚いている私をぎゅっと抱き締めてきた。ずっと聞きたかった言葉を聞けた所為か私は嬉しさのあまり涙が溢れ出してしまうと、彼は私の頬に伝う涙をそっと舐めた。生温い舌の感触に私はぴくりと肩を震わせると彼はクスッと笑って私の頬に優しく手を添えると「kissしてもいいかい?」と少し首を傾げた。その仕草が可愛らしくて、私はついつい口許を緩めると小さく頷いた。

そっと触れ合うだけの口付けを数回すると徐々に深い口付けになっていった。少々荒々しく舌を絡め合わせたりと吸われたり甘噛みされてる度に私の肩はぴくりと揺れる。流石に慣れてもいないこんな口付けをされると私は段々と息が苦しくなっていった。まるで頭が真っ白になりそうな感覚なのに何故か気持ちよくて彼をもっと求めてしまいそうになるけど息がどうしても苦しくてもう無理と思った瞬間に私は彼の胸板を弱々しく叩くと彼はそっと離れてくれた。

「…はぁ、…っはぁ」

「…っ、君は相変わらずヘタだなぁ」

「アルが、上手すぎるの…」

私は肩で息をしながらそう呟くと彼をじーっと見つめてやった。すると彼は目をパチパチさせて「君は俺を喜ばすのが得意だね」と言うと微笑んだ。


「ねぇ、アル…」

「んー?」

「まさかプレゼントはキス、なんて言うわけじゃないよね」

私は彼の首に腕を絡めると軽く彼の鎖骨に口付けを落とした。私の行動に驚いたのだろうか彼はきょとんと目を見開いて「なまえ?」と私の名前を呟いた。


「だからプレゼントは、」

再度私が言おうとしたら彼は私の口を塞いだ、勿論彼自らの口で。彼の行動に驚いて私はつい黙ってしまった。
彼は私を見つめるといつもみたいなテンションの高い声で笑って「プレゼント?そんなのちゃんと用意しているに決まってるだろ」と言った。

「えっと…アル?」

「今日の君は少し積極的すぎるね」

私が固まっていると彼はひょいっと私を抱き上げた、所謂お姫様抱っこという奴だ。私は慌てておとなしく彼にしがみつきながら「ア、アル…なにしてるの」と尋ねると彼はただ笑いながら「お姫様抱っこさ!」と言った。

「ちょ、降ろして」

「ベッドに着いたら降ろしてあげるよ」


とても嬉しそうな笑みを浮かべている彼を見たら私は文句を言えなくなってしまった。それに、たまにはこうやって彼にお姫様抱っこで運ばれるのも悪くないかもしれない、だってこんなにも近くに彼を感じられるんだもの。

ああ、きっとベッドに着く頃には私の誕生日は終わっていることだろう…いやもしかしたらもうとっくに終わってるかもしれないけれど、私にとって今年の誕生日も彼が居てくれたおかげでとても幸せだった。


「着いたよ」

ベッドに着くと彼はそっと私を降ろした。
すると彼は服のポケットから何やら高そうなブランドの箱を取り出すと私に差し出した。

「ア、アル?」

「誕生日プレゼント、今回は結構奮発したんだぞ」

私は驚きや感動がごちゃ混ぜになって、どうしたら良いのか全然わからなくなったが泣きながら彼に言った。

「ありがとう、愛してる」

すると彼は私に軽く口付けてから「俺も、愛してる」と優しい声で呟いた。
 



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