short | ナノ

 付き合ってから決めた二人の約束事。いつまで仲良くいれるようにって単純な気持ちで約束したけど今じゃこれが当たり前のようになってしまった。

バスタイム

「ベルベル見て見て、今日は新しい入浴剤入れたの!」
「ホントお前そーいうの好きだよな…飽きねぇの?」
「えー、可愛いじゃん」

私がそう言うと彼は呆れたようにわざとらしくため息をついた。何と言うか二人だけの空間には少し辛いため息だ。私が拗ねて頬を膨らますと彼は笑いながら私の頬を突っつく。こんなことを毎日のように繰り返している。

 二人には少し広い浴槽には少しぬるめの温度のお湯。そして、そのお湯は私が先ほど入れた入浴剤が溶けて広がりピンクの花びらがゆらゆら揺れている。私はこの香りが好きだけど彼は別に興味がないみたい。私が先に浴槽に浸かって楽しんでいるところに彼がやってきて隣にくる。一日の疲れが無くなりそうなくらいの満足感。そして何より恋人とゆっくり休める。そう、私たちにとってこうやって二人で過ごすバスタイムは至福の時間なのだ。

「ししっ、今日は膝の上に乗らねーの?」
「えー、だって乗ったら当たるんだもん」

そう言って私は隣にいる彼の太腿をそっと撫でた。すると彼の身体は微かに震えた。私がクスッと笑うと彼は仕返しをするかのように私のことを抱き寄せ、いつものように膝に乗せた。

「お前がそーゆーことするから反応すんだろ」
「えー、私わからなーい」
「…犯すぞ」
「お風呂場ではやめて」

彼の冗談か判別しづらい発言にドキッとしながらも私はこの体勢に安心感を抱いていた。彼に包まれているこの体勢は私にとってなによりも安心できるものだと思った。

「ベル、あのさ」
「ん、なーになまえ」
「好きだなあって」
「なんだよ、今更」
「だって幸せじゃん?」
「そーだな」

 仕事柄、人間の一生ってなんなのだろうかと思うことがある。私が殺めてきた人もこんな風に幸せを感じていたのだろうか。家族がいて、恋人がいて、日常を送っていたのだろうか。でも私はそんなことを考えてはいけない。標的に情を持ったら最後の世界。油断は大敵、信じられるのは自分だけの世界。けれど、私は自分以上にこのどうしようもない王子様を信頼している。本当、恋とは恐ろしいものだなとつくづく思う。
「オレさ、今度日本に行くことになったんだよねー」
「ふーん、どれくらいの期間?」
「知らねーけど、王子にかかれば楽勝だし。すぐ帰ってくるぜ」

 そう言って彼はいつもの笑みを浮かべた。私は彼の得意げなこの表情に弱い。この表情に惚れてしまったのかもしれないと言ってもいい。

「ねえ、おみやげは日本の入浴剤がいいなあ」
「遊びに行くわけじゃねーだろ」
「わかってるよ」

 自分だっていつも私に頼むくせに、と呟くと彼は聞こえないふりをして鼻歌を歌い出した。何処となく懐かしいメロディ、昔流行っていたバンドの曲だったかな。彼のお気に入りの曲なのか、よくバスタイムで口ずさんだり、鼻歌を歌うときは決まってこの曲だ。

「おじいちゃん、おばあちゃんになってもこうしてお風呂に入りたいな」
「オレら長生きすると思う?」
「さあね、でも私はベルと死ぬまで一緒だよ」

 私がそう言うと彼は私の顎をくいっと自分の方に引き寄せていつもよりも優しい口づけをした。唇が離れたときに見えた彼の前髪から透ける瞳が不安そうだったから今度は私から口づけをした。
 



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