::ハートビート



 学校全体が文化祭の準備に追われている今日この頃。

 そこら中に資材が散らばっていて、注意していないと踏みつけるか躓いてしまいそうだ。
 いつもの整然とした風景はどこにも見当たらない。

 行き交う生徒たちもどこか慌しく、浮き足立っている者も多い。

 そんな中、唯一と言っていいだろう。
 特別棟の四階にいる生徒達だけが何の変わりもなく普段通りに過ごしていた。

 それも理事長がヒールを高らかに鳴らしながら突然、部屋に入ってくるまでだが。

 理事長はソファに脚を組んで座ると、写真を一枚取り出してテーブルの上に置いた。

 ちょうど部屋に居合わせてしまった緒方、穂鷹、響の三人は向かいのソファに座り、惜しげもなく晒している理事長の美脚を見るわけでも、写真を取るわけでもなく視線をさ迷わせている。

「ちょっと。見るくらい見たらどうなの。礼儀がなってないわね」
「見るくらいなら……」

 少し顔を引きつらせて穂鷹が写真に触れた瞬間

「触ったわね、今バッチリ触ってるわよね。よし、引き受けてくれて助かるわ」
「は?」
「バカ穂鷹……」

 舌打ちと共に小さく呟いた緒方の毒と、前方から痛い程の視線を投げつけてくる理事長との板ばさみに合い、更に顔を強張らせて響に助けを求めると、盛大な溜息を吐いた後にやっと口を開いた。

「この人がここに来た時点で断れるわけないだろ馨」
「あら、さすが響。よく分かってるじゃない。という事でそれ、さっさと見つけ出して持ってきて頂戴」

 写真を指差して言った『それ』を三人が覗き込む。

 それは真っ白な猫だった。
 子猫ではなく大人であろう大きさであるにも関わらず、一切の汚れのない、写真上であっても毛並みの良さが窺える猫。

「他人様のものだから迅速かつ丁寧に捕まえてね。じゃ!」

 来た時と同じようにヒールを鳴らし、理事長はまるでモデルのように姿勢良く歩いて出て行った。

「……まず他人様のを逃がすなよ」
「あの人ってどっか要領悪いよねー」
「しかも絶対認めないよね」

 ドアを見つめながら、三人は既に表情に疲れを滲ませていた。

「でもこれどうすんの?僕達だけでこの広い敷地内捜すわけ?」
「やってらんね……」
「んー、でも猫なんてさ、食べ物につられんじゃないの?食堂とか」

 目だけ天井に向けて考えるように言った穂鷹に緒方がポンと手を叩いた。

「ナイスほーちゃん!! こんな冴えてるのなんて生まれて初めてじゃない!?」
「そこまでオレって頼りになんないの!?」
「おい早く行くぞ」

 一人さっさと部屋を出ようとしている響の後を穂鷹と緒方も追った。

top next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -