::マイヒーロー 穂鷹から聞いた話だけど。 テスト期間になると、なぜかいつもは気にならない部屋の散らかりや汚れが目に付いて仕方がなくなる。 そしてそれを直ぐに片付けてしまわないと気が済まないのだそうだ。 その余波を受けたのかどうかは定かではないが、テストを直前に向かえた今日。 特別棟の部屋の大掃除に皆で取り掛かっている。 「やっぱ最適な空間にいないと勉強って捗らないよね!」 「この時間を勉強に回せばいいと思うんだけど? つーか別にここでテスト勉強してるわけじゃないじゃん」 「気にしちゃイヤン」 「うわっ鳥肌立った! 見て見て」 袖を捲ってその証拠を見せてみる。 「えー、俐音ちゃんそれ駄目だって。本気傷つくからさぁ」 「知るかよ、本能が嫌がってるんだから。拒絶反応ってやつだって。あ、これテスト出るぞ」 「どんな風にさ!? もうっ……うりゃーっ!」 いじけた穂鷹が今までこの部屋のどこに仕舞ってあったんだか検討も付かないウサギのヌイグルミを顔に押し当ててきた。 しかも次にそれで自分の顔を覆っている。 「やーめい! 気色悪いなっ!」 「さっさと掃除しやがれ!!」 部屋の隅からブーメランが飛んできて見事ウサギのヌイグルミの尻にぶち当たった。 というかザックリと刺さっている。 「神奈ナイス」 「俐音も早く帰りたいだろうが」 「うん、まぁ」 その身を挺してくれたウサギのお陰で致命傷に陥らずに済んだ穂鷹が、それでも屈み込んで顔を押さえているのが目に入ったけど、気にせず作業に戻る。 使い道の分からないゴミの数々が出てくるのなんの。 「何でこんなに物があるんだ?」 「やー、数年前の先輩からずっと受け継がれてきた部屋だからねぇ。その間に色々増えちゃったんだよ」 それも部屋で見つけたのだろう、ピカピカと光る星が左右に一つずつバネの先に付いて揺れているカチューシャをつけた緒方先輩がそう答えた。 「いらない物は捨てていきましょうよ……」 じゃぁ、つまり何時からここは片付けというものがされていないのだろうか。 終わりが見えなくて眩暈を覚えた。 「いっそ、火でも放って綺麗さっぱりした方がいいかもしれないね」 穏やかな口調で恐ろしい事を言ってのける壱都先輩の言葉を聞き流しながらも、本当にそうしてしまった方がいいんじゃないかという気もしてくる。 それを見計らったかのようなタイミングで壱都先輩が小声で「チャッカマンならあるよ」と私に言った。 私にやらせる気ですか!? でも壱都先輩に持たせておくのも不安だったらしく、横から小暮先輩がチャッカマンを奪う。 「本当に使ったりしないよ」 「いや、お前の言葉は当てにならない」 という押し合いの会話を聞いていると、背中の方から緒方先輩の意味不明で脈絡のないお喋りが重なった。 「ひとーつ! この世に悪がある限り、犯罪者にはお仕置きだべー」 「馨それ色々混ざりすぎてるって」 「いきなりどうしたんだ?」 「こんなの見つけたー!!」 そう言って掲げられたのは真っ赤なヘルメットと同じく赤い布。 それと何の関係があるというのか。 「何ですか? それ」 「レッドだよ!」 確かに赤いな。布を広げてみれば全身タイツのようなもので。 「これ……いつ着るんですか?」 「あれ、リンリン知らない? 泣く子も黙る暴力的かつ押し付けがましい正義を振りかざす良い子の味方だよ!」 「一体、どこの世界の良い子がそんなヤバイ人間と味方になれるんでるんですかっ!? 衛生教育上宜しくないですよ!!」 それに正義の味方が全身タイツってその時点で間違ってるだろ。 私は目に付く真っ赤な布とヘルメットを何の躊躇いもなく処分用のダンボールへと投げ捨てた。 |