::VS-バーサス-


 三月も下旬に差しかかろうとしていて、気分としてはもう春といってもいいかもしれない。

 窓越しに晴れ渡る空を眺める分には日差しが暖かいが、やはり外に出れば空気はまだ冷たさを残していて私はそのギャップに眉を寄せた。

 だけど三学期の終業式も終え、昼前という素晴らしい時間に帰れるし明日からは春休みだ。
 多少の事で文句は言わない。そのくらいどうってこと無いと思える。

 学校は嫌いじゃないけど、休みは嬉しい。

「俐音ちゃん昼ご飯食べに行こうよ」
「うん、お腹空いた」
「お前さっき何か食ってなかったか?」

 響に言われて、さっき?と教室いた時を思い返してみる。
 そういえばクラスの奴にカロリーメイトをもらって食べた。

「あれはご飯じゃない、お菓子だ。言うなればバナナと一緒だ」
「何だっていいけど。胃に入るっていう点では同じだろ」
「心が満たされない」
「飢えすぎ……」
「分かってない。響は分かってない……」

 食にあまり興味がないらしい響に、お腹がいっぱいなのと口が寂しいのは別問題だという話を言ってきかせながら校門に向かっていると、バタバタと慌しい足音が後ろから聞こえてきた。

「俐音助けてくれっ!!」
「直貴?」

 全速力で走ってきたらしく肩で息をした状態の直紀は、切羽詰まった顔をしていた。

「助けてやろう。昼ご飯一食でどうだ」
「ホントか!? そんくらいで済むのか!」

 早まった。切羽詰り具合は私が思っていたよりも酷いらしい。
 用件聞いてからにすれば良かった。

「俺は帰るぞ」

 薄情にもそんな事を言う響と、黙っていたけど帰りたそうな穂鷹の腕をガッチリと掴んだ。
 離すもんか。

「ああ、成田と神奈にも来てもらわなきゃ無理だ……」
「だってよ!」

 直貴の言葉に舌打ちをする響に笑ってやった。

 それでも一応逃げ出せないように腕を掴んだまま校舎に戻る。
 連れて行かれたのは予想通り生徒会室で、そして予想通り緒方先輩達がいた。

 直貴があそこまで慌てて私たちを呼び止めるなんて、この人達絡み以外考えられない。

「俐音もまだ残ってたんだ」
「壱都先輩……」

 異様だ。緒方先輩と安部から険悪なムードが漂っていて、小暮先輩と篤志先輩が仲裁に入っている。

 みぃさんは我関せずでパソコン弄ってるし、壱都先輩はニコニコ笑いながらお茶で一服中。

 何だこの混沌とした状態は。
 直貴が居た堪れなくなるのも分かる。

「これは一体どういう状況なんですか」
「気にしなくていいよ。いつもこんな感じだから。よく飽きないよね」

 お茶をすすりながらまったりと眺めている壱都先輩と同じ方向を見てみる。

「僕お腹空いたんだけど。安部なんか買ってきてよ」
「帰れば」
「はぁ? 手伝ってあげてんのにそういう事言っていいの」
「その分聡史にやってもらうから」
「俺か!!」

 クスクスと笑っている壱都先輩は手伝いの数に入っていないのだろうか。
 ていうか空気が痛すぎて笑えない。

「と、止めなくていいんですか?」
「なんで?」
「で、ですよねー……。ははー……」

 壱都先輩は自分に飛び火しない限りはどんだけ揉めようと、戦争に発展しようとニコニコ笑って傍観できる人なんだ。

「もう! 安部とは一度決着つけないとだよ! こうなったら生徒会メンバーと僕らで勝負しよう。同じ分量の仕事をどっちが先に片付けられるか! これなら作業も捗るし一石二鳥だね! やったね!!」
「いいよ。そうしよっか。負けた方がご飯奢るんでいいよね」
「よっしゃー!」
「どさくさに俺らを巻き込んでんじゃねぇよ!!」

 一人だけ黙々と真面目に書類に目を通していたみぃさんが怒鳴りながら緒方先輩と安部のいる方に向かってホッチキスを投げた。

 二人は息ぴったりで左右に離れて避けたけど、その代わり壁に激突したホッチキスは瀕死の重傷だ。多分もう綺麗に書類をまとめることは出来ないだろう。

 壁には小さな窪みが出来てるし。どんな力で投げたんだ。

「それに俺ら六人で生徒会は四人じゃないですか。……四人? あれもう一人は?」

 この前いた変態の姿が見えない。

「俐音、下見てみろ」

 響がそう言って私の足元を指差すから見てみると、いた。
 仰向けになって床に転がっていた。

「うわぁぁー!!」

 て、手踏んでた!! 慌てて足を退けてみたけど、佐原は相変わらず寝ているのか死んでいるのかピクリとも動かない。



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