::三人寄れば


 放課後、じゃあなと手を振って教室を出て行く最後のクラスメイトを目で追いかけてから、私はまた机の上に視線を戻した。

 何枚ものプリントをパラパラと捲って溜め息を吐いた。

「俐音ちゃん溜め息ばっかり吐いてたら幸せ逃げちゃうよー」
「誰のせいだ、この野郎」

 人差し指を頬に押し付けてくる穂鷹の腕を払いのけた。

 教室に残っているのは私と穂鷹と響の三人だけ。
 普段は絶対に放課後にいるなんてしない私達が机を引っ付けて、プリントと睨めっこをしているのかと言うと、元凶は担任にある。


 帰る前のホームルームで、担任がやたらと笑顔を振りまいていたから碌な事を言い出さないだろうとは思っていた。

 案の定、奴は私達三人に全教科の問題がびっしりと押し込まれたプリントの束を渡して言った。

「お前ら余りにも授業出てなさすぎ。このままだと二年にさせらんねぇから」

 穂鷹も響も秋くらいからは授業にちょくちょく顔を出すようになったとはいえ、とき既に遅し。
 出席日数が足りないのは火を見るより明らかだ。

 いくら多少のサボりは理事長が許してくれても、それにだって限度というものがある。
 それに対して課題を今日中に終らせたら単位をくれてやろうという、先生方の破格の温情。

 二人については私は何の異議もない。当然だと思う。
 むしろこんな数枚の紙切れの提出でこれまでのサボりがチャラになるなんて甘すぎるくらいだ。

「だけど何で俺まで!」
「まあ、鬼頭はついでみたいなもんかな。ヤバくはないけどお前も休み目立つし。三人仲いいし」
「おまけ扱い!?」
「三人寄ればなんとやらだ。ケンカせずに要領よく他の奴らを使い合えよ」

 まるで道具か駒のような言い方だ。
 担任と話しているとたまに人間不信に陥りそうになる。

 とまあ、そんな訳で私たちは課題を総て片付けなければならなくなったのだ。

「ねえ俐音ちゃんこれなんだけどさぁ」
「あぁ? 数学なら響に聞けって。響のが得意なんだから」
「でも響は教えるの下手なんだよ」
「もう自分の力で解こうと思うな、時間ないんだから写せ!」

 ほら、と既に終っている響の数学のプリントを穂鷹に差し出す。

「これを……?」
「……ごめん、これはダメだな」

 別に字が汚くて読めないなんて事はない。
 大雑把にだけど、読みやすい。
 というか大雑把すぎて使い物にならないんだ。

「なあ響……ちょっと計算式が少なすぎないか?」
「そんなもんだろ」
「いや、これとこれの間に確実に二、三行は何かしら式が入ると思うよ」

 問題に沿った公式に当てはめた式が一応申し訳程度に一行書かれてるんだけど、その次がいきなり答えとかおかしい。

「計算しようよ」
「したから答えが出てんだろうが」
「頭でしたものを文字として表記しろって言ってんの!」
「………」

 うわ、面倒くせぇって顔しやがった。
 穂鷹と顔を合わせて、響は思いの外当てにならないと落胆する。

「取り敢えず公式だけは写させてもらうよ。響に口で説明してもらっても分かんないし」
「式使えば勝手に答え出てくるのに説明のしようがないんだよ」
「あーはいはい、そうですね。オレとは頭の構造が違うんですね」

 やっぱり一問につき一行しか書かれていない解答は直ぐに写し終えたらしく、穂鷹が荒い動作で響にプリントを返した。

 私はこれから穂鷹が頑張って解いたものを写させてもらおう。

「俐音、国語は?」
「んー待って、もうちょい……。ほら出来た」

 響の方に国語のプリントをスライドさせて、逆に響から英語のプリントを奪い取った。

 英語は数学と違って、答えに至るまでの過程を示す必要がないから響のでも大丈夫だ。

 そしてふと、いつもテストの結果を見たときに疑問になる事を思い出して、響に聞いてみる。

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