::観察日記


 こんにちは、俐音です。

 私がいつも一緒にいる人たちはとても個性的です。
 未だによく彼らの生態が掴みきれません。
 というわけで、今日は一日行動を追跡したいと思います。

 しかし全員を、というのは無理なので一人に絞ります。
 特に理由はありませんが、同じクラスで奇しくも席が私の前の神奈 響にしようと思います。

 朝、教室に行ってみても神奈の姿を見つけることは出来ません。
 なんせ奴はサボリ魔なので、殆どここには来ないのです。
 今日は天気がいいので特別棟の屋上にでもいると思われます。

「やっぱり」
「……は?」

 屋上の扉を開ければ、いつもの定位置に座って空を眺めている神奈が。
 よくこうしているけど、一体何を考えているのかはさっぱり分かりません。

「探してたんだ。神奈の一日の行動をまとめて神奈 響がどういう人間かを分かりやすくデータ化しようかと……」
「お前はFBIのプロファイリングのスペシャリストか」

 こいつのツッコミは冷静でいつもザックリと容赦なく突き刺さってくる感じです。

「……あんまりキツイ事ばっか言うと泣くぞ」
「よく言う、お前だってかなりズバズバ言いたいこと言ってるだろうが」
「そんなことない。私はちゃんと83%くらいに抑えてる」
「微妙なさじ加減だな」
「これが結構むずかしいんだ。秤が欲しいくらいな」
「どんなだよ」

 私の髪をくしゃりと掻いて小さく笑った。
 よく私の髪を触ってくるけど、これは癖なのでしょうか。
 ……そういえば福原先輩もやってくるしな。これが普通なのか……? そうなんですかね?

「で、お前授業サボってんのな」
「ああうん。今日は神奈の観察日記つけようと思って」
「なんだそれ。じゃあ俺は一日お前につけ回されるって事かよ」
「心配しなくても、家まで行ったりしないから」
「当然だろ、来ても追い払うぞ」

 神奈なら絶対そう。
 私が泣いて家に入れてくれって言ってもきっと、「知るか」とか冷たい言葉を浴びせてくるんですよ。
 ヒドイ奴です。
 想像しただけで何だか気分が滅入ってしまいます。


 神奈の観察途中結果


 サボリ魔
 ツッコミ属性
 心に突き刺さる言動も顔色を変えずにさらりとしてのける冷たい奴

 以上!


 ぎゅるるぅ――

「………」

 私の頭の中で結論が出たと同時に、お腹から切実に空腹を訴える音が鳴った。

「お腹すいた……」
「まだ昼になってねぇけど?」
「そんなの関係ない。私のお腹はもう限界なんだ。今すぐメシを食えと体が訴えてる」
「そうかよ」

 気のない短い言葉を発した後、神奈はゆっくりと立ち上がった。
 そのまま校舎の中へと入ろうとする。

「おい、食堂行くぞ」
「え? 神奈も……?」

 神奈もお腹が空いたのでしょうか。
 小走りで神奈に追いついてそう訊いたら、今度は頭を撫でて

「アホ、お前今日はずっと俺に着いてくるんだろ? だったら俺が行かなきゃ何時まで経ってもなんも食えないぞ」

 なんて言ってきた。
 その表情は穏やかで、髪に触れてくる手つきはとても優しげで……。


 神奈の観察最終結果

 やっぱり掴みきれない奴でした。



※おまけ


「やっぱ神奈も食べるんだ」
「当たり前。何でお前が食べてるのを眺めてないといけないんだ」
「それもそうか。……なぁ、それおいしそうだな」

 物欲しそうな眼でじっと見てくる俐音。
 くれって事だろう。

「……食えば?」
「やった!」

 すぐさま手に持っていたフォークをラーメンの中に入れてクルクルと回し、取り上げた麺を頬張った。
 別にいいけど、変な図だ。

「おいしい」

 フォークを口に入れたまま喋る姿は子どもっぽい。
 しかも珍しく嬉しそうに笑っている。
 ラーメン一口で何とも安い奴。

 俐音は普段は辛口なこと言ったりしてるけど、結構ボケた部分があったりする。

 感情があんまり顔に出ないと思ったら、こうやって呆気なく笑ってみせたりして、掴み所がない。

 コイツのこと全然把握なんて出来ないけど、こうやってたまに幸せそうに笑ったりしてるから、それでいいか。


end

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