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 見事な秋晴れ
 駅を出た侑莉は空を仰ぐ。空気はやはり冷たさが強いが、日差しは暖かだ。

 すっかり慣れた一本道を歩く。
 なだらかな坂道を上がって行けば、有名な私立高校がある。
 
 今日はその高校で文化祭が行われていて、侑莉の目的地だ。
 
 いつもは通行人のそこまで多くないこの道も、今日ばかりはぞろぞろと人が歩いている。
 
 侑莉は流れからそっと抜け、脇にあるコンビニエンスストアに入っていった。

 ピンポーン
 アラームが鳴る。それに合わせてこちらを向いたその姿に侑莉は手を振った。
 
 入ってきたのが侑莉だと気付くと「あ!」と声を上げて途端に表情を明るくした希海に駆け寄る。

「侑莉さん久しぶりー!」

 見慣れたユニフォームに身を包む店員である希海も嬉々として侑莉に両手を伸ばした。
 
 女の子らしい賑やかな高い声で再会を喜び合う。
 
 それほど長く離れていたわけでも、遠くにいたわけでもないけれど。
 夏には毎日のように顔を合わせていたのだから、感覚としては「久しぶり」だった。

 本人達が思っていた以上に音量が大きかったらしく、奥にいた頼も何事かとひょっこり顔を出した。

「おー侑莉さんじゃん!」
「岸尾くんも久しぶり」

 人通りは多くても店に入ってくる客は殆んどいないらしく、店内はがらんとしている。
 
 だから店員が二人共のんびりとお喋りに興じていても困る人も、不快に感じる人もいないのだ。

「もしかして文化祭行くの?」
「うん、弟がいるから」
「あーはいはい、あのツンドラ少年」

 頼と希海が頷いた。どうやら幾らかの面識があるらしいが、あまり良い印象とは言い難いのではと姉としては心配だ。
 
 巧の人当りの悪さは良く知っているつもりだ。
 侑莉とは違い人見知りしない分、初対面でもずばずばと言いたい事を口にしてしまうから。

 悩み出した侑莉に「そんな事より」と希海は話を切り替えた。
 弟大好きと公言して憚らない彼女だから、このままでは本題に入る前にどれだけ時間が掛かるか分かったものではない。

「あの家主さん、いやもう居候してないけど、兎に角あの人とあれから会ったりは……」

 聞き辛いらしく最後の方はごにょごにょ歯切れ悪く、窺うように見上げられ、侑莉はここに寄った理由とも言える話題に真っ直ぐ希海を見返した。

「ありがとうね、ずっと気にしてくれてたって瑞貴さんに聞いたよ」
「へぇ、てんちょー侑莉さんとこ行ったんだな。竜野がうざってぇくらいにせっついてたんもんなぁ」
「岸尾うるさい!」

 顔を真っ赤にした希海が噛み付く。
 ずっと心配してくれていた。さっき喜んでくれたのは、ただ侑莉の突然の訪問を嬉しく思っただけではなかったのだろう。



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