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 バイクを駐車場に停め、脱いだヘルメットを半ば捨てるようにその上に置いて凌はマンションの中に入っていった。

 仕事が終わって携帯電話を覗けば、また瑞貴から一通のメールが入っていた。

 人の神経を逆撫でする文面なのはいつもの事なので、内容のみを読み取れば、侑莉が体調崩して重症だから早く帰れというものだった。

 メールの受信時間は昼前。という事は朝にはもう具合は良くなかっただろう。
 だが侑莉はそんな素振りは見せず、凌には普段通りにしか映らなかった。

 辛抱強いのか、普段から凌には本心を隠したところしか見せていなかったのか。
 どちらにせよ、腹立たしい事には変わりない。

 乱暴にドアを開けて侑莉の部屋に入ったが、誰もいなかった。
 靴は玄関にあったからどこかにはいるはずだ。

 これでもし普通に料理でもしてようものなら、本気で怒鳴らないと気が済まない。

 だがリビングは凌が朝出た時と同じく静まり返ったままで、違いはベランダの窓だけが開いてカーテンが揺れているというだけだ。

 外だろうかと部屋の奥まで来て、ソファに丸まっている物体を発見した。

 以前にも同じような光景を目にしたからか、その存在自体に馴染んでしまったからか、ああここにいたのかと思っただけで驚きはしなかった。

 ソファの前にしゃがんで侑莉の顔を覗き込むと、確かに顔色が悪い。

「起きろ阿呆」

 何度か肩を揺さぶると、ゆっくりと瞼を押し上げた侑莉は、体はそのままに目だけを上向けて凌を捉えると気の抜けたような笑みを浮かべた。

「あれ、香坂さんだ……」
「何時間こうやってたんだ」
「……んー」

 まだ完全に頭が働かないらしく、緩慢な動きで壁に掛かっている時計を見て驚いた。
「うわ、八時間くらい……です」
「あぁ? 風邪引いてないだろうな。喉が痛いとか鼻が詰まるとか」

 矢継ぎ早に言われて首を横に振ると、頭が重たかった。
 
 凌は信じていないのかジッと侑莉を睨んだが、もう一度首を振ると「じゃあもう着替えて部屋で寝てろ」と追い出された。

 服を着替えるだけで立っていられないほど疲れ、ベッドに腰掛けたものの、さっきまで嫌と言うほど寝ていたのだから眠気は微塵もない。

 久しぶりに熟睡したが、夢に魘されるくらいなら起きている方がましだった。

 凌は晩ご飯を食べたのだろうか。
 もしも自分が作っているのを当てにしていたのなら、何も用意していないから悪い事をした。

 何となく枕を抱き寄せて寝転がり、きっちりと閉まったドアを眺めながらぼんやりと思った。

 急にノックも無くドアが開くと、手に色々抱えた凌が入ってきて「何やってんだ」と眉間に皺を寄せる。

「……ひまなんです」
「寝てろ」
「眠くありません」
「それは馬鹿みたいにソファで八時間も寝こけるからだ。ていうか枕は抱くもんじゃない」

 起き上がってもガッチリと腕で抱き込んでいる枕を掴んで取り上げようとしたが、侑莉は更に頑なに離そうとしない。

 コイツは何がしたいんだ。
 口調は舌っ足らずになっていて、相当しんどいはずなのに変なところで体力を使っている。



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