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 だが凌は口ごもる侑莉を放って学校の方へと足を速めた。
 そこに見えている水無瀬学園は第一とも呼ばれる男子校だ。
 何年か前、別の場所に共学の水無瀬第二学園が出来たからそう言われるようになったのだ。

 校門まで来ると、夏休み中だから当然といえば当然だが、門はきっちりと施錠されていた。

 だが凌は気にせず近づくと、見上げなければならないほど背の高い門の隣にある、人一人が通れるくらいの小さな扉に手をかけた。

 すると扉はキィと音を立てて開くのを見た侑莉は呆気に取られて何も言えないまま、中に入ってく凌を眺めていた。

 どうして凌はそこが開いていると知っていたのか。不法侵入じゃないのか。
 セキュリティが甘すぎるし、校門に付いている大きな南京錠は全く意味を成していないのではないか。

 どれもツッコむ隙も与えられず、凌に「早く入れ」と急かされてすごすごと侑莉も学校内に入った。
「お前の弟の教室ってどこ」
「えーと、確か2Aってだったかなぁ」
「Aって事は特進か。じゃあそこ行って弟が一生忘れられないような恥ずかしいネタを黒板に書いとこう」
「なんでですか! だ、ダメですよそんな事して万一私だってバレたら、それこそ一生口きいてもらえなくなっちゃう!」
「姉のくせに弱いなお前」

 事実をサクリと刺されて侑莉は押し黙った。
 心の中だけで、弟がどういう人物か知らないからそういう事を言うんだと返す。

 弟の巧は姉の侑莉よりもしっかりしているから、つい頼ってしまう事が多い。
 するといつの間にか立場は巧の方が上になっていて、侑莉はあまり逆らえないのだ。

「というか、ほんとどこからそんな発想が……」
「あ? 高校ん時よくやらなかったか?」
「やりませんよ!」

 一体どんな高校生活を送っていたのか。
 この学校に入ってから、侑莉は頭が痛くなってきそうになっていた。
 迷い無く進む凌の少し後ろを小走りでついていきながら眉間を軽く押さえた。

 と、その時

「それ絶対幽霊だよ、幽霊。探し出して捕まえて売ればいいよ」
「幽霊をどうやって捕まえるんだ……」
「気合があれば出来るんじゃないの?」

 中庭に差し掛かったところで、近くから話し声が聞こえてきて侑莉は体を硬直させた。
 自分達が不法侵入しているとバレたら拙いと思った。
 それも、こんなにも堂々と正面を切って歩いているのだから言い訳など出来るはずも無い。

「こ、香坂さん!」
「あ?」
「あーっ!」

 隠れましょう、と言う前に横の校舎から出てきた男の子が大声を上げて侑莉を指さしたのだ。
 ぎょっと目を見開いた侑莉以上に男の子の方が驚いている。

「いたぁー、やったよ聡史、今晩のおかずはお赤飯だよ!」
「おかずが?」

 すでに頭がついていかない侑莉の隣で凌が冷静にツッコんだ。



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