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「謎が解けても止めるだけの力があっても、アタシにはそれを実行するだけの行動力がないのよ」

 笑いを鎮めたソレスタさんは、どこか淋しそうに目を伏せた。

「人を救えるだけの力があってもそれを行使する事は許されない。有り余る時間も知識も浪費していくばかり。人から外れた存在だからこそ、誰よりも人の理に支配されなければ生きていけないものなのよ。これはディーノやあの子にも言えた事ね」

 意味を掴みかねて首を傾げる私に、ソレスタさんは苦笑し「要するに」と続けた。

「大きすぎる力を使ってしまうと、人一人の人生どころか国、いいえ大陸そのものに影響を与えてしまう可能性がある。人は力に頼り、力を恐れる生き物よ。アタシや聖騎士なんて目立つ存在は余程上手く立ち回らないとね、戦争になるわ」

 力があるからこそ縛られて行使出来ない。
 人の中で生きていくには皆と足並みを揃えないとダメだ。出る杭は打たれる。

 自分が討たれるだけで済むなら軽いかもしれない。

「逆に言えば、自分じゃ何の力も使えないハルちゃんだからこそ、何でも出来るのかもしれないわね」
「なるほど! つまり私は無限の可能性を秘めていると、そういう結論ですね!」
「何も出来ないまま終わる可能性の方が高いけれどもね」
「……デスヨネー」

 私自身、何か出来るなんて思えないんだわなぁ。
 せいぜいが、こうやって無い知恵絞って唸る程度だ。結局はソレスタさんが考えた方が早いんだけどね。

「それでも、ここに私がこの世界に呼ばれたからには私も何を為すべきなんだと思うから」

 自分を特別だなんてこれっぽっちも思ってないけど、私に何かをさせたくてユリスがここに飛ばしたなら、それが何かを突き止めて行動に移さなきゃいけない。

 でも何をしなきゃいけないのかまでは知らされてないから、まず目的を探す所からやらないといけないんだけど。

 目的が見つかるまで、片っ端からやれる事はやらにゃならんつーわけだ。
 
「ところでハルちゃん」
「はい」
「ディーノのところに行った方がいいかもよ?」
「うん? なして?」

 決意も新たにもう一杯紅茶を、と思ったところだったのに。
 きょとんとする私に大賢者様はにんまりと笑顔を作った。あまり良い感じのしないものだ。

「鏡はもうあの子が持ってんのよ、いつディーノが狙われてもおかしくないわ」
「うえっ!?」

 驚いて立ち上がった衝撃でお茶っ葉が零れたけど気にしていられない。

「ディーノの部屋行ってくる!」
「いってらっさーい」

 とってもとってものんびりとした見送りを受けながら私は走って部屋から飛び出した。
 ていうか私の部屋なのにソレスタさん一人残るっておかしくない!? と気付いたのはかなり後になってから。

 なにはともあれ、私はディーノの部屋へ走った。
 隣の部屋へ行っただけです、はい。
 

「ディーノ大丈夫!?」

 ノックして返事待つなんて悠長な真似は致しません。
 バンッ! とドアを開けて中を確認した。

「…………」
「…………」

 デジャヴだ。ハンパない既視感。
 テーブルの上には湯気がくゆるディーセット。

 その前のソファにはディーノが長い脚を組んで優雅に座っている。そしてそんな彼に覆い被さろうとしなをつくる侍女さん。

 そういや侯爵も侍女さんとイチャこらしてたなぁ。あれは侯爵の方が圧し掛かってましたが。
 なんっだこの親子!!
 なんともアダルトな雰囲気に後ずさりした。ヒクリと頬が引き攣る。

「ハ、ハル」
「あ、ハルだ」

 私に負けず劣らず顔を引き攣らせたディーノと、私からはソファの背もたれに隠れて見えない所に座っていたらしいホズミが、背もたれの向こうから顔だけひょこりと出した。

 ほ、ほ、ホズミィ!?

「あんたら子供の前で何アダルティーな空気出してんだバカ!! ほらホズミこっち来て! 一緒に私の部屋に逃げるよ!」
「違いますよハル、勘違いしないで下さい」
「動かぬ証拠を見せつけておいて勘違いだと!? だったらその妖艶なお姉さんは何だコラァ!!」
「侍女です」

 うん確かに。て、ちがーう!!
 そうじゃなくて、そうじゃなくて!

 何故に侍女さんがディーノに密着してたのかって言ってんのよ私は。
 不必要にベタベタしといて何もないなんざ言わせねぇっつの。

 本当なら問答無用でぶん殴りたいところだけど、これまたホズミの前だから我慢してんだからね。

「この世界の男ってどいつもこいつも! ディーノなんかもう知らんっ! 心配して損したバカ!」

 ててて、と寄ってきたホズミの手を取って部屋を出て行った。
 
 必要以上に力強くドアを閉めて。
 




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