▼page.1 目を開けるとそこはお花畑でした。アルプスの少女が駆け回ってそうな美しい自然が広がっていました。デジャヴ。 少し離れた所にぼさぼさのプラチナブロンドに黒のローブを羽織った男の姿が。 「おお!」 手を合わせてポムと音をたてた。こっちの世界に来てからというものやたらとキャラの濃い人達とばかり知り合いになったお陰で、すっかりとこの人の存在を頭の中からおいやっていた。 そういや居たなぁなんて懐かしさすら感じる。 「おい嫁、なんだその反応は」 「嫁言うな! 私には葛城悠っていう名前があるの。葛城様かハル、どっちかで呼んでちょうだい」 「おい」 なーまーえーでー! 呼べって言ってんでしょうがこの分からず屋! しかもハルって呼ぶしか選びようのない二択に敢えてしたのに。本当にボケとツッコみを理解しない中二病だな。 「それで、一体ここって何なの? 私はどうしてまたここにいるの?」 「ここはお前の世界ともう一つの世界の狭間だ」 あ、ちゃんと答えてくれた。話通じてるよちょっと感動。 よしでは次の質問行ってみよう。 「あんたは何者? まさかユリスだとか言うんじゃないでしょ?」 「ハッ!」 鼻で嗤われた! ガッテム! でもこれで人間だってはっきりしたわね。いやぁ神様だったらどうしようかと思ってたんだ。コスプレ野郎とか罵声浴びせちゃったしさ。 「ねぇ、べーやん」 「べーやん?」 「名無しの権兵衛でべーやん。アンタの名前カッコ仮」 「勝手に名づけるな」 「だったらユリスカッコ偽にするわよ」 「名付けてるだろうが」 「だーから名を名乗れと言っておるんじゃ!」 私何キャラ! 興奮しすぎて自分を見失ってしまったわ。ふふ、と笑って誤魔化しを試みたんだけどべーやんには一切通じなかった。 今にも首絞めてきそうな勢いで睨んできている。 「……ブラッドレイ」 「は?」 「名前」 「ああ。長いわね、レイにしよう」 「…………」 ふぅと心底鬱陶しそうに溜め息を吐かれた。もういいよ、この人の悪態にいちいち反応してたらこっちの身がもたない。友好的な対応なんて期待してないしね。 「でさ、レイは私に何の用なの」 「お前の脳は記憶を留めておけないのか? お前は俺の望みを叶える為にここにいる、そう教えたはずだ」 そういやそんな事も言ってましたねー。あの後フランツさんやソレスタさんにこっちの世界の事を色々聞いたせいで、綺麗さっぱり忘れ去ってたけど。 私の脳はちゃんと記憶してましたよ。ただすぐに思い出せなかっただけだもん。不必要な記憶だと判断しただけだもん。 何故ならこの人の言う事もこの人自身も矛盾まみれだから。 フランツさん達の説明は筋が通っていた。正しいと思えた。だけどレイの話をプラスして考えるとどうしても辻褄が合わなくなってしまう。 私はソレスタさんの術でディーノの請いによって呼ばれたんだよね? だからあの儀式の場へ落ちた。 でもその前にレイとここで会って、彼は自分が私を連れてきたのだと言った。自分の願いを叶えるために。 ユリスはレイとディーノ、どっちの願いのために私を選んだの? ソレスタさんはレイの事を何も言わなかったのは、黙っていたんじゃなくて知らないからだと思う。大賢者でさえその存在を認識していないこの人は一体何者? 「レイ、あんたの望みは何なの?」 この人の望みを叶えたら、私は本当に帰れるの? 予想されていなかったユリスの花嫁の出現。急を要するほど魔は増大していないという。だというのにユリスが私を遣わせたのはレイが求めたからってそうとも考えられないかしら。 この人が何者か知らない。でもそんなの関係なくない? 思い始めたらいても経ってもいられなくなりそうでずっと意識を逸らしてきたけど、帰れるなら一日だって早く元の世界に帰りたい。 両親がいて馬鹿みたいに人懐っこい友人がいる私の世界に。 ざああっと風が私達の間を吹き抜けていった。プラチナブロンドが揺れて作り物みたいな紅の瞳が顕わになる。 私を真っ直ぐに見据えて彼は言った。 「ディーノをこの世から消す事だ」 前 | 次 戻 |