▼page.1 えっと。私とっても場違いな気がしてならないのですが。事情聴取って言ってたから、刑事ドラマのイメージで勝手に考えちゃってました。 個室で尋問員二人対フェイランくんとザイさん。その他大勢(私はこちら側)はマジックミラー越しに腕汲みながら傍観するだけ……みたいな感じかと。 だと思っていたのに、だだっ広い会議室に通さちゃったんですが。ここにどうぞって指定された座席これ、特等席っていうかパーティー席っていうか、すっごい目立つ場所なんですけど! 私隅っちょの方で良かったのに……。 とは言え、私が一番の被害者のようなものですしね。興津さんが異世界人という事も鑑みて私の意見が重要だとかそういう事なんでしょう。 ふふふ、大丈夫ですよ。私一人の意見だけで物事を判断されちゃ怖すぎますからね。こんな事もあろうかとちゃんと策を講じてきましたとも。 「ね! セツカさん!」 「なに? なんでわたしこんなトコ連れて来られてるのかしら?」 それは異世界人だった前世の記憶があるからでっす! それを理由に私がセツカさんの席を捻じ込んだからでっす! さてでは、この会議室にお集まりいただいている面々を順に紹介いたしましょうか。 まずサイラス王と王妃様にお姫様。その傍に立つのがマリコさんとディーノ。 私とセツカさんがいて、その横に立っているのがヒューさんとウィルちゃん。 そしてフランツさんとソレスタさん。彼等の護衛はなし。ソレスタさんが鉄壁なので。 最後がフェイランくんとザイさん。 「そんな、取って食おうってんじゃないんだから楽にしようや」 こんな状況で楽に出来るのなんて貴方くらいでしょうよ。王様がパンパンと手を叩いて場の空気を和ませようとしているのか余計にピリピリさせようとしているのか分らない事を言った。 案の定、フェイランくんとザイさんは緊張した表情を崩さない。 「えぇとあたしやフランツなんかは今回の事なんにも聞かされてないのよ、ちゃんと説明してくれるかしら」 そういや今回ソレスタさんはちゃんと仕事してて全然寄って無かったね。いつも気づいたら首突っ込んでたからこういうの珍しいかも。 フランツさんは神官だから常にお城にいるわけじゃないしね。 事情を知らないのにここに連れて来られたという点で同じセツカさんも、うんうんと頷いている。 「ではまずは魔女の説明から始めましょうか」 マリコさんが手に持っていた資料を目で追ってパラパラと捲った。 城下町で当たると評判の占い師として王妃に城に招かれた事。 名は興津上総といい、私と同じ異世界人であり、こちらへ連れてきたのは神様だと言った事。 年齢は二十代半ば。私と同じなら絶対に使えないはずの魔術を駆使していたが、彼女の物言いから日本人であるのは間違いないであろう事。 兎族の青年を連れている事。マクシスという人物を探している事。 今私達が分かっている情報はこのくらいでしょうか。 マリコさんが淀みなく説明しているのを聞きながら、どんどんと私の隣にいるセツカさんの表情が険しくなっていくようで、何故か冷や冷やさせられました。 「あの、セツカさん? どうかしました?」 「……すみません。その魔女ってわたし達が前に街で見かけた人ですよね?」 「ええそうです」 答えたのはディーノだ。セツカさんはやっぱり難しい顔をしている。 「興津上総……。性格きっつい美人じゃなかったです?」 「きついっていうか、良くも悪くも思った事全部言っちゃうような、言って何が悪いのよ! みたいな人でした」 「ああもう絶対あいつだ! あの女こんなトコまで来やがったよ!」 「お知り合い、なんですの?」 ことんと小首を傾げるラヴィ様が超絶可愛過ぎる。ほら見てフェイランくん! という気持ちで彼を見ると、私が言うまでもありませんでした。 思いっきり見惚れちゃってました。あららぁ、頬染めちゃって。 「何の偶然なのか分りませんが……。わたしの以前の知り合いです」 「以前の?」 「ああセツカちゃんはね、前世の記憶があるのよ。世にも珍しい異世界で生きた記憶がね」 何故か自慢げに言ったソレスタさん。私に最初にセツカさんを紹介してくれた時もそれはもう自分の手柄を伝えるかのように胸を張っていました。 それだけセツカさんが日本人だった記憶があるというのが貴重なものなんだろうね。 いや、ていうか。 「セツカさん興津さんの事知ってんですか!?」 「多分、わたしが知ってる人で間違ってないと思うわ。あんま言いたくないけど、高校の時の友達」 「友達!?」 あの魔女さんと!? そりゃセツカさんも変わった所ある人だとは思ってたけど、まさかあのトンデモな人と友達って! あんま言いたくないっていうのが酷いけど。 「そうだな、どういう神の采配かは知らんが……。異世界に居た頃の魔女の姿を知る子がいるっていうのは何か意図を感じるなぁ」 そうですね。そんなニヤニヤ人相悪く笑う王様見てたら、誰かが裏で糸引いてて何か仕組まれてんじゃないかって疑いたくなっちゃいますね。 「ちょっと気になったんだけど、ハルちゃん達がいた世界に魔法っていう概念はないんでしょう?」 「魔法や魔女っていう言葉はありますが、そういった超常現象は起こせないというのが常識です」 「でも魔女は魔術を使ってたのよね」 そう、そうなんですよ。日本人で間違いない興津さんが、ソレスタさんが持っていたような杖で魔術を繰り出していた。 有り得ない話だ。魔法の概念のある世界に来たからと言って、急に魔法が使えるようになるわけじゃない。 まず魔力を保持していないといけないし、魔術を使うには素質と、そして使い方をきちんと習わないといけないものらしい。 普通で考えて空間転移なんて高度な術を、こちらの世界にきて日が浅いであろう興津さんが駆使出来るはずがない、と昨日ディーノが言っていた。 ソレスタさんもその意見とほぼ同じらしい。そこが引っかかる様子。 「そして魔女は自分の意思でこちらへ来たわけではなく、誰かに連れて来られた。異世界へ帰るにはマクシスという人物が必要と言った、と」 静かに話を聞いていたフランツさんが情報を整理する為にマリコさんに確認を取った。 「その通りです」とマリコさんが頷くとフランツさんは目を細めた。 「という事はこちらへ魔女を連れてきたのがマクシスだと考えるのが妥当ですね……」 「よしよし。じゃあそういうわけだから、マクシスってのが何者か教えてもらおうか」 何が目的で興津さんを連れて来たのか。そもそもどうやって連れて来たのか。 一体全体マクシスって何者なのか。 本日の主役のはずが結構放ったらかしにされちゃってたフェイランくん達にやっとスポットライトが当たった。 彼等は顔を見合わせてフェイランくんが口を開いた。 「マクシスというのは僕の友人で、ザイの弟です。天才的な魔術の素養を持っていて将来有望な魔術師でした」 「魔術師……。あ、じゃあもしかして興津さんはさぁ、そのマクシスさんに魔力を分けてもらったのかな?」 ほらソレスタさんがお師匠さんに魔力をもらったり、ブラッドとディーノが魔力を分けたり融合させたりしてたじゃない。あれ。 「多分そうでしょうね。それにしたって、魔女の方によっぽどの素質と要領の良さが備わって無いと魔術を急に使えるようになるなんて無理だけど」 「あの人なら出来る」 私とセツカさんの台詞が見事に被った。私は興津さんの事何一つ知らないけれど、あの人何だって出来ちゃいそうな気がする。 「まだ問題はあるわ。いくら天才魔術師だってね、人一人を時空転移させるなんて不可能なのよ。人間である限りは」 そうだ。賢者と言われて何百年も生きているモンスターソレスタさんでさえ、人を異世界から召喚する事は出来ないのだ。 前 | 次 戻 |