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「イーノック様、ここにいる死霊以外の魔族は打撃が有効ですので、じゃんじゃんやっちゃって下さいませ」
「簡単に、言いますけどねぇ!」

 文句を言いつつ騎士団長イーノックは襲いかかってきた下級魔族を斬り裂いた。
 元々は王族の近衛を務めていた彼ですが、トモヨさんが現れた折に彼女の護衛の任を請け負ったのです。
 
「トモヨさん、イーノック様にかかればこの辺りの雑魚などお話になりません。焦る必要はありませんのでゆっくりと」

 たまにポイと攻撃アイテムを投げてイーノックを援護しつつ、トモヨさんに笑いかける。
 青褪めつつも頷くトモヨさん。初陣からそう簡単に習得できるとは思っていません。まずは慣れる事が重要なのです。
 
 というわけでイーノックについてでも語りましょうか。
 二十六という若さにして誉れ高き騎士団の団長の任についているイーノック・ラプラス。あ、別にフルネーム覚える必要はありませんのであしからず。
 
 下級貴族の出という事で実力はあるにも拘わらず、出世の見込みはないとされていたのだけれど、実力主義の王子に見初められて近衛に就任し、そこから出世街道まっしぐらというお方。だからレオナルド様に頭が上がらないのです。
 
 ライトブルーの髪と金の瞳というとっても鮮やかな配色をしています。普通金髪碧眼ではないのかって思われた方、わたくしも全くの同意見です。
 少々真面目過ぎるのが玉に傷ですが、話は分かる方なのでわたくしはそこそこ好感を持っておます。そこそこ。
 
「ウィスプ……ウィスプお願い、力を貸して!」

 あらあら、気付いたら何時の間にやら死霊に遭遇していたようです。
 イーノックが攻撃を与えて間合いは取っていますが、コイツ等は精霊の力でなくては倒せません。
 
 焦燥が手に取るように分かるトモヨさんの祈るような声に呼応して、ウィスプの力が発動しました。
 眩い光の波動が死霊を貫き、一瞬で消滅した。
 
「お疲れ様ですトモヨさん。見事でしたわ」

 ぱちぱちぱちー! 拍手と労いを送ると何故かイーノックが剣をしまいながら溜め息を吐く。
 アルといいこの人と言い、わたくしに対してはぁはぁし過ぎじゃないかしら。いやだわ。
 
「お疲れ様です、巫女様。取りあえず今日のところはこのくらいで良いでしょう、ルルーリアお嬢様?」
「ええ、お付き合いくださってありがとうございます、イーノック団長様」

 『お嬢様』の部分をやたら強調してくるけれど、貴方の嫌味なんて真に受けませんわよ。
 視線で火花を散らすわたくしとイーノックの事を、何故かトモヨさんは楽しげに見ていました。
 
「さぁさ、お屋敷に辿り着くまでが魔族討伐ですわよ。気をお抜きにならぬよう!」
「なんですか、それ」

 呆れたように言うイーノックを無視してトモヨさんを促す。
 
「ほらイーノック様、最後までしっかりトモヨさんを守ってくださいまし」

 トモヨさんはこの世の最後の希望。戦いの経験値はあげていただかなければなりませんが、少しだって危険に曝すわけにはいかないのです。
 細心の注意を払っていただかないと。
 
 けれどイーノックは深々とため息を吐いた。あら、このわたくしに対して何て態度を取って下さるのかしら。
 
「私の本日の任は、トモヨ様とルルーリア様をお守りする事です。なので貴女も大人しく守られて下さい」
「……まぁ」
 
 なんて事かしら。この方って天然タラシだったのね……
 わたくしではなく普通の貴族令嬢なら、さっきのでコロッといっちゃいますわよ。
 平民出とはいえここまで名の知れた騎士なら、身分差もさほど苦にはなりませんでしょうしね。
 
 怖い怖い。もしかしたら爽やかな外見の裏で、こうやって若いお花を摘みまくっているのかもしれませんわ。
 
「そうですわね。ありがとうございます、イータラシノック様」
「……なんて?」
「イー・タラシ・ノック様」
「ルルーリア様。一度貴女とはじっくりとお話をさせていただいた方がよいですね」

 いやよ。だって貴方タラシなのだもの。
 一対一でお話をして、タラシっぷりを如何なく発揮してわたくしを籠絡させる気なんでしょう?
 
 と、イーノックに対するわたくしの評価をあけっぴろげに伝えた所、「馬鹿じゃねぇのかあんた」と敬語をも取り去った、彼の素の言葉遣いで罵られてしまいました。
 
 終始傍観に徹していたトモヨさんが「すげぇ、――――だ」とか何とか呟いていましたけれど、声が小さすぎて聞き取れませんでした。
 
 



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