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一言で言えば、安心。
明宏はほっと息を吐いた。

案内された部屋は、やっぱり広かったがシンプルで小奇麗で知的な感じがした。
まずそこで、ヨーロッパオタクでは無いと安心する。
そして、見た目。

綺麗な黒髪がさっぱりと整えられ、俗に見る爽やかな二枚目と言った感じだ。もちろん、太ってなどいない。
すらりとした体型、明宏より高い背。
因みに明宏は低い背をコンプレックスとしている。身長は165センチ前後。

もちろん、育ちがよさそうな爽やかな顔立ち。
一緒に住むぶんにはなんら問題は無く、杏やったな!と明宏は兄ながら心の中で喜んだ。

とりあえず挨拶しておこう、と明宏は口を開き握手を求める。

「あの、よろしく…」

「俺は今忙しい」

握手を交わし、嘉人はそうきっぱりと言いながら先ほどまで座っていたソファーへ踵を返した。
文字通り、明宏は呆然。

「よ、嘉人様、いけませんよ、明宏さまにご挨拶をしないと…」

慌てて美河が注意するも、嘉人は全く悪びれもせず何やら施錠を弄繰り回している。
その様子にも、明宏は呆然。

「婚約者とか俺は興味無いんでね、ただの同居する奴だろ。どうだっていい」

「す、すみません、明宏様…嘉人様は鍵作りに取り掛かると人を寄せ付けなくなってしまうのです、その、本来は優しい性格ですから、お気になさらず…」

そうか、これは夢中になっているときについ出てしまうものか。と、明宏は納得しようとした。が、しかしそれよりも明宏は怒りを、
爆発させてしまった。

持っていた鞄を思い切りその頭にぶつける。
ぼかん!といい音が鳴り、痛みに嘉人は目を丸くして明宏を見上げた。

その顔は、憤慨していて真っ赤になり、怒ると泣く性質なのか薄っすら涙を浮かべていた。

「…ふざけんなよ、…俺だって婚約者とかどうだっていいんだよ!そうじゃなくて、同居人だろうとお前がお坊ちゃまだろうと、いっぱしの礼儀ぐれぇは守れ!!」

この礼儀知らず!と、明宏は吐き捨て部屋を出て行ってしまった。

ばたばたと走り去る明宏を、呆然と見る嘉人と美河。
嘉人より先に、美河が慌てて明宏の下に向かおうとその老体を動かした。
が、彼の肩を柔らかく掴み嘉人は諭す。

「俺が行く」



美河は安心したように、柔らかい微笑を戻した。

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