いっこうに春の訪れない毎日、
1日の授業の終わりを待っていれば辺りはもう薄暗い。
たかが日の傾きくらいで己の欲望を曲げられる程器用じゃない愛弟子と、
屋上のタイルをいくつか割りながら暴れ回り、
その雲雀が力尽きて膝を付いた時、ディーノが空を仰いだらもう星が光っていた。


「あぁぁ疲れた、恭弥、お疲れ」

「疲れてない」

「座り込んでんのは誰だよ」

「座り込んでない」


ん、と両腕を伸ばされて、それが起こせという意味だとディーノはすぐにわかったが、
言ってる事のあまりの説得力の無さに思わず苦笑する。
こっちを向いた10本の指を掴んで、引っ張り起こしてやる。
軽い身体は簡単に立ち上がった。


「恭弥、指、冷たっ」


まるで氷にでも触れている様で、両手で両手をまとめて包む。
なんでもかんでもノーと言うあまのじゃくな雲雀は、
だけどさすがに今回ばかりは素直にディーノの熱を受け取る。
真っ赤な指先はちっとも人肌に戻らず、
ディーノはぎゅうぎゅう、何度も細い十指を握り直す。


「あなたは逆に不思議なくらい、暖かいね」

「俺は心が暖けぇからな、滲み出てんの」

「…それ、暗に僕が冷たいって言いたいの?」


冗談混じりなディーノに雲雀はこれまた赤い頬を僅かに膨らかす。
雲雀にとって腹立たしいのは、心が冷たいうんぬんでは無く、
ディーノが自分を揶揄したその事である。
案の定過ぎるその反応にディーノは笑う、
それはまた雲雀の不機嫌を加速させる。
そこまで見越してディーノは、少しずつ解けてきた指先にいくつもキスを落とす。


「まぁ確かに恭弥はどっちかってったら冷たいかな」


雲雀は振り払わない。
唇の温もりに絆されたわけでもない。


「でも俺の知ってる最初の恭弥より、今はずっと暖かいし、優しいぜ」


誰も居ない暗闇を良い事に、ディーノは馴れ馴れしく雲雀を抱き寄せる。
誰も見てないのを良い事に、雲雀は大人しくディーノの両腕に擦り寄る。
甘いふたりを邪魔するものはなにひとつ無い、
それを冷やかすのは、まさしく冷たい指先だった。


「ひゃっ、」


雲雀の高い声が暗闇に少しだけ跳ねた。
温まった首筋を、いくら雲雀のより暖かいと言えど、
ディーノの手に撫でられて肩を竦めて警戒する。
逃げようにも、自ら捕まりに行った腕が離してくれるはずが無かった。


「やだ、冷たいっ、…ちょっと!」

「恭弥の暖かいとことか優しいとこは、俺にだけ見せてくれれば良いさ」


シャツの襟から背中側に侵入する大きな手は無遠慮に雲雀の熱を奪っていく。
座り込む程疲れ切った身体で抵抗なんて出来るはずも無い。


「…最近な、面白い日本語覚えたんだ」

「は?」


どうでも良いからやめて欲しい雲雀に構わず、
ディーノは思い出した様に言う。


「性的な意味で、って」

「……、」

「恭弥の暖けぇとこ、性的な意味でも、俺だけに見せて?」

「…馬鹿じゃないの?」


ディーノがにこりと笑う。
いつもの草食動物どもに見せるのとはぜんぜん違う、
そうまさに雲雀にだけ見せる、いやらしい大人の顔だ。
もうやだ死んでよ変態、罵倒の言葉は唇に飲み込まれて音にすらなれなかった。




 性 的 な 意 味 で ★         









120219-120322.



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