チョコレート混じりの唾液を指に絡めて、
指先を徐々に徐々に、狭い体内に忍び込ませていく。
微かに呻く恭弥を労る様にキスしながら、
しかし限界のラインはとうに過ぎていた。
罪悪感は無いでも無い。
だがそれよりも優先順位の上の欲望が、
だらだらだらしなく垂れている。
世間体やら見栄やら責任やら、
そういった類のものが今ものすごくどうでも良い。
なによりも目の前の子が欲しいのだ。


「恭弥、」


痛いのか気持ち良いのか、目尻を真っ赤に涙を浮かべた恭弥が、上の空のままで頷く。
いったいなんの肯定なのかはわからないが、
胸に溢れる愛しさは肥大するばかりだ。
反応を伺いながら、慎重に、だけど迅速に、
少しずつ指を動かして、増やして、拡張していく。
背中に回された手にシャツを掴まれるのを感じながら、
その引っ張る強さで恭弥の状態を測る。
痛くても痛いなんて言わない子だ、
困った子だと思ったのも最初の内だけで、
今ではそれも愛おしい、彼を形成するひとつの要素になっている。
第一関節を曲げて探れば、ぴくりと目蓋が震えた。
シャツが引っ張られる。でもこれは痛い時の反応じゃない。


「…ここが良いのか?」

「…っ、ん」


そこをゆるゆると撫でてやると、
恭弥は耐える様に唇を結ぶ。
息を潜めて、まるで誰かから隠れる様にして、
ここには自分と、その痴態を見せつけている俺以外には誰も居ないのになぁと、
こんな事をしながら和やかな気持ちになったりする。


「可愛いなぁ、お前は」

「あっ、やだ…っ」


触れる指先を押し当てる。
反射的に動いた左足に脇腹を蹴っ飛ばされたが構わず続けて、
性感を押し潰して離してを交互に繰り返す。
さっきまでのが嘘みたいに声を上げて、
逆に誰か通りかかったら気付かれるんじゃないかと心配になった。
下校時刻を過ぎた放課後、普段から生徒の寄り付かない応接室前が人気が無いのを良い事に、
まったくとんでもない事をしでかしているという自覚は十分にあった。
今となっては生徒から取り上げた、
段ボールの中のチョコレートたちからも非難の声が聞こえる様だ。
だってどう考えたって、チョコレートよりも重罪だ。


「…うぅ、」


恭弥が呻く。抱きついて、シャツごと肩を噛まれた。
痛みよりも、薄い布地に染みる温い涙が気になる。
もう片方の腕で頭を支えてやりながら、
石鹸の匂いのする黒い髪に顔をうずめる。


「恭弥、嫌だったらやめる」

「っ、やなんじゃない…」


喋るとそれに合わせて犬歯がちくりと刺さった。
唇が塞がるせいでくぐもった声で、
嫌じゃないから、と繰り返した。


「…じゃあ、悪ぃ、次進んでも良いかな」

「悪くない、良い」


子供みたいな返答に笑ってしまうと、不機嫌そうに髪の毛を引っ張られた。
引っ張られついでにキスをしてやる。
舌はさも当然の様に絡まって、前歯がごつごつ当たるのも無視してとにかく互いを追いかけ回す。
もう今日はひたすらに舌を酷使し過ぎて、
いい加減付け根にじりじりと疲労を感じ始めている。
体内から指を抜けば内壁は追い縋る様にまくれて、
そんなにお望みとあらずともすぐにくれてやるつもりだった。
待ち詫びてすっかり腫れ上がった欲望を押し入れる。
恭弥の短い悲鳴が断続的に聞こえて、
そこには痛い、も含まれていたとは思うのだが、
それさえ今はただの煽りにしかならない。
申し訳無く思いながら抱き締めたら、それよりずっと強い力で抱きついてくる。
お願いだからこれ以上膨張させないで欲しい。


「あっ、あぁ、だめ」

「…っ駄目なら、やめる、」

「違う、駄目じゃないけど、あぁもう」


声を我慢する事をすっかり忘れている、
午後の中学校に似つかわしくない嬌声を聞きながら侵入していく。
一度腰を引いてみたら、きゅうきゅう締め付けられて危うくイってしまいそうになった。
基本姿勢が全力投球な恭弥なので、
こういう事をする度に力を抜けと言っているのに、だいたい聞いていない。
もどかしげに突っ張った脚を撫でて緊張を解いてやりながら、
濡れて上向きの性器を手のひらで包む。
一瞬びくりとした後、力の緩んだ隙に奥まで押し込んだ。
手のひらの中が熱い。中はもっと熱い。溶けるんじゃないかと思った。
ゆるゆる腰を揺らして、生まれた余裕を膨張ですぐさま埋める。
雪みたいな白い肌を有り余る熱で溶かして、薄紅を咲かせて桜色に染めて、
まるで季節を冬から春に変えている様な錯覚を覚える。
こんな浅ましい事をしていても、本当に綺麗な子だ。
そんな綺麗とはかけ離れたやらしい内部で、まとわりつく粘膜をたぶらかして、
沸き上がる吐精感を堪えての抽送が心地良い。
ソファが軋んだ音を立てて、それがなんだかはしたなくて動きを大きくしたら恭弥の声まで大きくなる。
どれだけ呼吸を荒げたって出て行くのは二酸化炭素ばかりで、
快感が抜ける事は無いのだとこの子は知っているのだろうか。
性器を押し込む度にじわりと滲む涙を吸い取り、
もう駄目、と呼気だけで言うのを聞いた。
一気に奥まで突いて、恭弥の身体が一際震える。
まさか中に出すわけにはいかないので、
ぎりぎりのところで引き抜いて、咄嗟に手のひらで受け止めたけれど、
指のあいだからこぼれた白濁は恭弥の太股に垂れた。
しかしその上の腹部は、吐き出された精液で真白い制服がべたべただった。


「…悪ぃ、すぐ拭いてやるな」

「……、」


言ってから、そう言えばティッシュが見当たらないのだったと思い出した。
近くのトイレまで行って拝借してくる事も考えたが、
いくら人気の無い校内と言えど、
こんな状態の恭弥をひとりにするのははばかられた。
とりあえず自分のスーツを着せて、早々にホテルに戻ろうと決めて、
汚れたカッターシャツを脱がす。
太股始め、直に汚れてしまった部分は、
仕方が無いので本日大活躍の舌で舐めとる事にした、
なんなら明日攣る覚悟さえした。


「ん、やだ、舐めないで」

「ごめんな、でも他にどうしようも無ぇから」

「…あなたは、」


恭弥が潤んだ瞳をきっと釣り上げた。
そんなに嫌かと顔を上げたら、両手で頭を掴まれた。


「…なんでそんな謝るかな」

「ん?」

「あなた謝ってばっかりだ」

「あー…悪い、やな気分にさせた?」

「また謝った」


頬をぎゅうと包まれる。痛くは無いのが逆に怖い。
恭弥が怒っているのか呆れているのかわからなくて、
知らず喉が乾いてくる。


「なにがそんなに不安なの」

「不安」


俺は不安なのだろうか。
どちらかと言えば、身を起こして角度の付いた恭弥の腹部の傾斜を、
雫がこぼれていってしまわないかが不安だった。


「僕の事が嫌い?」

「まさか」

「僕に嫌われるのが怖い?」

「…それは怖いかも」


恭弥は不満そうに唇を噛んで、俺をじっと見つめている。
悲しんでいるのだと気付いた。


「恭弥、」

「僕はこんな事するのあなただけだし、あなたもこんな事するのは僕とだけだ」


すっかり赤く腫れた唇が、乾いた俺の唇に触れた。


「遠慮も手加減も要らないって、いつも言ってる」


まさに目と鼻の先、喋ると互いの唇が触れ合う距離で、
だから恭弥がどんな顔をしているのかはっきりとはわからなかった。


「痛くても辛くても、まぁあなたなら、許してあげないでもない」


ねぇやっぱり僕酔ってるかも知れない。
恭弥が困った様に少しだけ笑った。


「あなたが好き」


この子は本当に、普段からは考えられないくらい、
まるで壊れ物にでも触れる様に、優しくキスをする。
そんな一面を、その唇の感触を知っているのが自分だけだというのは、
それはもう自惚れるに足る事だった。


「恭弥」

「なに」

「俺も、好き」

「知ってるよ」


素っ気無く返して、だけどその瞳が嬉しそうで、
細い身体に被さる様に抱き締める。


「だけどね」

「ん?」

「悪い事はちゃんと謝らなきゃいけない」


抱き締めたくてうずうずする俺の腕を解いて、恭弥がかしこまって俺を見つめる。
なにか悪い事をしただろうか、いや思い当たる事が多過ぎて逆に思い出せない。
記憶を辿って目を泳がせていたら、
恭弥がぺこりと頭を下げた。


「チョコ、台無しにしてごめん」

「え? あ、いや」


重力で黒い髪が垂れる。
濡羽色の前髪カーテンを開けたら顔を上げた恭弥の、露わになった額に口付ける。


「ぜんぜん台無しだなんて思って無ぇよ」

「ほんと、」

「あぁ、むしろ、良い思いさせてもらっちゃった」

「…あなたも大概変態だよね」

「は、なんとでも言ってくれ」


呆れた顔の恭弥が頬をつついてくる。
ていうか今回のチョコレートプレイを始めたのはお前の方じゃねぇか、とは、
ゆるゆるゆるんだ口でも言ったりなんてしない。
だってショコラはあと5つ、余っている。


「なぁ恭弥、もっと良い思いしねぇ?」


細い白い身体を自分の大きめのスーツで包んで、
ぶかぶかのそれをマントみたいに羽織った恭弥を、
なんならお姫様抱っこでスイートまで連れてってやるつもりだ。
そこなら段ボール箱のチョコレートたちからの非難も聞こえないし、
もっとはしたない事だってなんだって出来る。
反らされ泳いだ瞳の上で、長い睫毛が瞬くのを肯定と受け取る。
さぁ目眩がする程甘いチョコレートに、溺れに行こうか。









120214.



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