「すごい事だと思うんだ」


少しもすごいなんて思ってないだろうと疑いたくなる程、
いつも通りの平坦な声で恭弥はぽつりと呟いた。
正直言わせて貰うと、お前の驚いたは大抵は一般常識なんだよ。
誰もが知っているはずの事に驚くお前に驚きだよ。


「なにが?」

「僕とあなたが出会った事。すごい確率だと思うんだ」


こちらに向けられた漆黒の瞳は少しだけ温度を持っている様に見える。
恭弥の口からそんなロマンチックな言葉を聞く日が来るとは全く予想していなかった俺は、
その真っ黒の目を見つめたまま、年甲斐もなく胸を高鳴らせた。


「日本の中学生と、イタリアのマフィアのボスが出会う確率って普通どれくらいなんだろう」


俺が前例が無いと言うより先に、
恭弥が前例が無いよ、と続けた。


「しかもその中学生もマフィアになってイタリアに渡って、そのイタリアンマフィアと同じベッドで寝てる確率ってどれくらいだと思う?」


俺が1だと言うより先に、
恭弥が1だよ、と続けた。


「1パーセントの少数派なら少数派らしく、もっと慎ましくした方が良いんじゃないの」

「悪ぃな、あいにく『ツツマシク』なんて難しい言葉は知らねぇんだ」


それに鳴かせてるのは確かに俺だけど、
あられも無くあんあん喘いでるのは他でもないお前じゃねぇか。
キスしただけで甘い声を漏らす恋人を、
もっと高いところへ連れて行く準備をする。

お前の驚いたは、俺には一般常識なんだよ。
だって俺とお前は出会うべくして出会った、言うなれば運命なのだから。
囁けば、いつもなら冷ややかに一蹴されるところだが、
溶け始めてる恭弥はそれすらも愉悦の材料にして、馬鹿じゃないの、と笑った。
いつもこうなら可愛いのになぁ、
思わず浮かんだ悪態は、あまりに可愛い痴態で吹き飛んだ。
ベッドに押し倒して愛撫を深くすると、
徐々に笑みと余裕が消えて切羽詰まっていく、
なにより楽しいその行程を満喫しながら、
ベッドサイドの明かりをひとつ落とした。




 1   p e r c e n t   r o m a n c e .         









111213-120116.



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