あの子は、どんなのが好きだろう。
甘い匂いの漂う煌びやかなショーケースの前で、
迷いに迷って迷いまくって、そろそろ1時間。




 煽 情 ス ト ロ ベ リ ー シ ョ ー ト ケ ー キ         




「恭弥ぁぁあ会いたかった!!」

「うざい帰って。あと死んで」

「酷ぇ」


応接室に辿り着いて、黒髪の可愛らしいのを見つけて飛びついたら、
いつも通りの声色で返されて、尚更愛しくなった。
前会った時と同じ声、同じにおい、同じ体温。
会う度に少しずつ背格好が変わっていくこの子の、
変わらない部分に俺は言いようの無い安心感を覚える。


「い、委員長、では自分はこれで…」

「あぁ、お疲れさま副委員長」

「おう草壁、お疲れな」

「…失礼します…」


そそくさと扉を閉めて草壁が出て行く。


「草壁どうかしたのか? なんかそわそわして」

「…ねぇ、イタリア人ってみんなそうなの?」

「あ? イタリア人はみんな仲間の変化には敏感だぜ」

「へぇ、鈍感なんだね、良く分かったよ」


恭弥はなぜか呆れた様に溜め息を吐いた。


「そうだ恭弥、お土産」


俺は低いテーブルの上に真っ白い箱を置く。
恭弥に飛びついた拍子に傾けたりなんてへまはしてない。たぶん。
一目でケーキだと分かるそれに、恭弥が僅かばかり食いついた。


「なに、くれるの」

「土産だって言ったろ?」


こんなつんつんしてるのに、甘い物が好きだなんて、もう、ほんとに可愛い。


「どれが良い?」

「………」


箱を開けて、現れた色とりどりのケーキ(良かった傾いてない)を恭弥はじっと見つめる。
まるで猫じゃらしに狙いを定める猫の様だと思った、
放っておいたら耳でも生えるんじゃないだろうか。
あー迷ってるなぁ。だよなぁ俺も迷ったんたぜ。あぁもう、ほんとに可愛い。


「…なんなら全部でも良いぜ?」

「それじゃああなたの分が無いじゃない」

「別に俺は要らねぇよ」

「いや、駄目。あなた、なにが好きなの」

「俺は恭弥が好き」

「真面目に答えなよ」


欲張りでも、ちゃんと俺の事も考えてくれてる事が嬉し過ぎて死にそうだ。
俺は可愛い恭弥がケーキを頬張ってるのを見れるだけでお腹いっぱいだぜ。
ほわほわと幸せな気持ちで恭弥を眺めていたら、
彼は名案を思いついたという顔で俺を振り向いた。


「そうだ、はんぶんこしよう」


鼻血吹かなかった事を褒めて欲しい。


「そしたら僕もあなたも全部食べれる。それで良いでしょ、どれから食べる」


満足そうに笑ってケーキを吟味してる恭弥を力任せに抱き寄せる。
この子は今、自分がどれ程俺を煽ったかも分かってない。
耳元に唇を当てて、言葉を流し込む様に囁く。


「…お前からって言ったら、どうする?」


腕の中の恭弥がびくりと身体を強ばらせた。
可愛い。いじめたい。可愛い。


「…僕は苺のショートケーキが良い」

「ん、じゃあそれな」


微かに上擦った声が聞けただけで満足で、
両腕を解いて恭弥を解放してやる。
恭弥は居心地悪そうに目を伏せる。真っ赤な目元が可愛くて仕方無い。
赤い苺の乗ったショートケーキを箱から出して、
蓋部分を皿代わりにして置いた。
プラスティックのフォークで一口分を掬って、恭弥の口元に運ぶ。


「はい、あーん」

「…ん、」


素直に口を開けて、恭弥は俺の手からケーキを食べた。


「うまい?」

「うん、あなたも、」

「食わせてくれんの?」

「…あなたこぼすから、しょうがないからね」


つんとそっぽを向いて俺の手からフォークを奪う。
思わず頬にキスしたら、くすぐったそうにした。


「…はい」

「いただきます」


恭弥の差し出してくれたケーキを口に入れる。
控えめな甘さで良かった、恭弥の優しさで100倍甘く感じる。


「うまい」

「そう、」

「次は恭弥の番な」


交代で互いの口にケーキを運び合う。
唇の端に付いたクリームを舐め取られた時は本気で失神するかと思った。
少しずつ欠けていくケーキは、最後に真っ赤な苺を残して無くなった。


「はい恭弥、お待ちかね」


俺がフォークに突き刺した苺を恭弥の口元に運ぶと、
その目は不満そうな色をした。


「あなたの分は?」

「俺は良いよ。代わりに苺みたいな恭弥食わせて?」


冗談めかして言ったら本当に苺みたいに赤くなった恭弥が、
真っ赤な苺に噛じり付いた。
あーえろいなー、そう暢気に思っていたら苺を口に含んだままの恭弥にキスされた。
甘酸っぱい果汁が流れ込んできて、恭弥の舌と一緒に果肉が押し込まれる。
つぶつぶした苺の感触と、ざらりとした舌の感触とが口の中を蠢いて、
しばらく呆然としていたら、恭弥が不機嫌そうに、恥ずかしそうに、唇を離した。


「…僕を食べるんじゃなかったの?」


理性がぶっ壊れた。
一度離れた唇に再び噛み付くと、恭弥の小さな口腔を舐め回した。
恐る恐る差し出された舌を優しく絡め取って、でも容赦無く蹂躙する。
口の端から溢れた唾液は微かに苺の色をしていて、
恭弥の白いシャツにピンク色の染みを作った。
息苦しそうにしていた恭弥から唇を離すと、
代わりに思い切り抱き締める。
耳元に掛かる荒い吐息に身震いする。


「恭弥、ホテルにお持ち帰りして良い?」

「、良いけど…」


なんの文句を言われるのかと思ったら。


「ここで食べないと、悪くなるよ?」


ぶっ壊れた理性が残らず吹っ飛んだ。
勢い良くソファーに押し倒したら、ケーキの話だよ、と恭弥はいたずらっぽく付け足した。









120122.



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