< ! > どえむびっちアラウディ第2弾←
   行為自体はありませんが、性器ピアスネタです、
   微暴力・性描写を含みます。







「正気?」


正気の人間ならきっと誰しもこう言う。


「正気」


それに、正気じゃない人間はこう返す。




 ア パ ド ラ ビ ア         




気が違ったとしか思えない。
しかし目の前で俺に針を差し出すアラウディはそうとは思えない程無表情だ。
いや、気違いだから無表情なのか。


「絶対痛ぇぞ」

「だろうね」


さらりと答えるから本当にそう思っているのか疑わしい程だ。
たったさっき、この子は唐突に俺に細い針を差し出した。
なんだこれと聞いた俺に、いつもの無表情のまま平然と、
亀頭にピアスを開けたいだとか言い出した、
ほら気が違ったとしか思えないだろ。
耳やへそへのピアシングをしている人間は俺の周りにも少なくはないが、
俺にはどうしても、わざわざ好き好んで身体に穴を開ける理由が理解出来なかった。
親からもらった大事な身体である。それなのに進んで傷を付ける意味がわからない。
…と、常々思っていた矢先のこの発言だ、
それも耳やへそですらない、まさかの男性器にである。
そんなところに針を通すだなんて、
想像しなくたって俺は震え上がってしまうというのに、
いや、まっとうな男子なら(いっそ女子でさえ)、誰だってこうなるだろう。
しかしそれをやりたいと言い出した本人はいつもと寸分違わず無表情である。
どう考えても正気の沙汰ではない。


「…なぁ、なんでまた、そんなとこになんだ?」


俺は知らず、恐る恐るな口調になる。
アラウディは相も変わらずけろりとしている。


「どこかしらには開けてみたかったんだ、ピアス」

「なら普通に耳にしろよ」

「耳だとばれるだろ。絶対ジョットに文句を言われる」

「……、」


それならあそこにピアス開けたなんて知ったジョットは失神するぞ。


「考え直せ」

「決意のある内にやっておきたいじゃない」


アラウディが、ん、とニードルを俺に差し出す。


「…だからって、なんで俺が開けんだよ」

「どうせならあなたに開けてもらった方がおもしろいでしょ」


ふふ、とはじめて無表情を崩した。
しかしここで笑顔になられるとむしろ異常に拍車が掛かる。
この子怖い。


「俺は開けねぇぞ、」


いくら自分自身でないとは言え、恋人の身体に、ましてや性器に針を通せなんて、
さすがに受諾出来るおねだりでは無い。
この話はやめだ、との意味を込めて手を振ると、
アラウディは、むぅ、とむくれた。
可愛い。だが流されてはいけない。


「…良いよ、じゃあ誰かにやってもらうから」

「待て待て待て待て」


ふいと部屋を出ていこうとするアラウディの手首を慌てて掴んで引き止める、
なに、と不機嫌そうに振り返るこの子はいったいどんな思考回路をしているのだろうか。
俺は最早泣きたい。


「…また、お前はそうやってその辺の見ず知らずに平気で裸を晒して! 駄目だって何回も言ってるだろ!」

「だってあなたが、」

「だってじゃない!!」

「なに涙目になってるの、あなた」


あぁ、もう。


「…わかったよ、やれば良いんだろ、」

「ほんと?」


ぱっと嬉しそうな顔をするアラウディ、
対して俺はきっとすごく複雑そうな顔をしている。
アラウディの手からニードルを受け取る、注射器の様なその針先がぎやりと光った。
さっきから俺は鳥肌が止まらないのだが、
当の本人は平然と下衣を脱ぎ去っていた。


「じゃあお願い」

「…俺ピアスなんて開けた事無ぇけど、良いんだな?」

「一気にやってね。半端にやると痛いし、面倒だから」


結局痛いんだから止めとけよ、とは思ったけれど、
もうなにを言っても無駄な気がしたので黙っておいた。
ベッドに腰掛けたアラウディに向かい合って座る。
性器に針をあてがう。なんで俺が深呼吸してんだろう。
アラウディもそわそわとしているが、例えるならそれは遠足前夜の子どものそれだった。
目の前の恋人に恐怖すら募らせながら、
何故か俺は初めて人に向けて引き金を引いた時の事を走馬燈の様に思い出していた。


「…行くぞ、」

「うん」


亀頭の裏側から上部に向けて針を刺した。
針先が人体を裂く嫌な感覚を指先に感じ、無傷の俺の方が顔をしかめた。


「んっ、」


アラウディが短い悲鳴を上げて俺の肩をぎゅうと掴んだ。
思わず指先の動きを止める。


「おい、大丈…」

「ばかっ、」


労って覗き込んだらその目にぎっと睨まれた。
それにも躊躇を煽られた俺はまたきょとんとしてしまったが、
アラウディは俺の指に自らの手を添えると、一気に針を貫通させた。


「ちょっ…!」

「…っ女々しい人だな、半端にするなって、言ったろ」


はぁ、と息を吐いてアラウディは俺を睨み上げる。
いや、どっちかって言ったら俺が女々しいんじゃなくてお前が男前過ぎるんじゃないだろうか。
痛みと激昂したのとで目尻を赤くしたアラウディが、
くたりと俺の胸にしなだれかかってきた。


「…いたい」

「そりゃそうだろ…」


シャツの裾をぎゅうと握って痛みに耐えるアラウディを見下ろす。
普段からこの子は無表情だし、意地っ張りだし、
そもそもその特殊な性癖から、あまり痛みを露わにする事は少ない。
だからこうして素直に痛がっているアラウディは貴重だった。
正直、興奮した。
ドMに付き合わされて、俺もだんだん一般枠から外れていってる気がしてならない。
細い身体を緩く抱き締めて、ぐずる子供をあやす様に背中を叩く。
そうしていると少し回復したのか、アラウディはニードルをバーベルと差し替え、
ボール型のキャッチを留めた。
かくしてアラウディのアパドラビアは貫通した。
あまりに力尽きた様子でもたれ掛かってくるアラウディに、
言わんこっちゃないと思いながらも、無性に愛しくなってその髪を撫でる。
ふるふると痛みに耐えていると思っていた彼が、その時やたら甘い溜息を吐いた。
背筋がぞっとした。


「…跳ね馬、」

「な、にかなアラウディ君」


俺を見上げた瞳がとろける様に潤んだ。
ぞっとした。それはもう。


「……良いかも知んない…」


はぁ、と漏れた吐息に、俺はもう今日何回目かもわからない思考停止に陥った。
この子、怖い。









120329.



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