酔っぱらいの相手程面倒なものは無いから、
頬を赤らめてふにゃふにゃとご機嫌で帰宅したあなたはリビングに放って、僕は早々に眠る事にした。
寝室に向かおうとする僕を、だが彼はすかさず腕を掴んで引き止めた。
酔いどれのくせになんて俊敏さだ。


「恭弥ぁ、どこ行くんだよー」


間延びした声にいらいらした。
熱を持った赤い唇が擦り寄せられると、甘ったるいシャルドネのにおいがする。
引きはがそうともがくうちに、容易く抱き込まれてしまった。


「寝るんだよ。何時だと思ってるの」

「なに、俺の帰りが遅かったから怒ってんの?」

「怒ってない、呆れてるんだよ。離して」


ぎゅうと腰に抱きつかれて動けなくなる、
酔いどれのくせになんて力だ。

数時間前、あなたは数人の部下を連れて、
なんとかってファミリーの主催するパーティに出掛けた。
友好関係にあるという彼らには気を遣う必要が無かったのだろう。
いやだがしかし、これはあんまりにも、だらしない。


「恭弥、好きー」

「そう」

「愛してる」

「そう」

「好き、大好き」

「くどいよ」

「うん、だって好きなんだから」

「数言えば良いってもんじゃない」

「そんな事無ぇよ」


後ろから抱き込んでそのままソファへ引きずり込もうとするあなたに抵抗する。
なんで眠る前にこんな無駄な体力を使わねばならないのか。


「俺は恭弥が100回愛してるって言ってくれたら100倍嬉しいぜ?」

「へぇそう、愛してるよ離して」

「嬉しい恭弥離さねぇ」

「愛してる愛してる、はいもう気が済んだでしょ」

「嬉しい恭弥もっと言って」

「じゃあ何回言えばわかるの、愛してるから寝かせて」

「何回でも言って」


駄目だ話が通じない。
あぁ、もう、だから嫌だったんだ、パーティに行くだなんて。
だいたいあなたはそんなにお酒も強くないんだし、
それにもしその酒に毒でも入れられてたらどうするんだ。
いくら友好なファミリーが主催のパーティだからって、
あなたの命を狙ってる奴なんて山程居る。
それなのにこんな、緊迫感の欠片も無い。


「…僕が、どんな気持ちで待ってたと、思ってるの」

「恭弥…?」

「いくら部下を付けてたって、不安なものは不安なんだよ」

「恭弥、」


呼ばれて上げた視線の先で、あなたに顔を覗き込まれていてはっとした。
何故気付けなかったのかと考えた時、視界が潤んでいる事に気付いた。


「恭弥、泣かないで。心配掛けてごめんな、でもほら俺はどっこも無事だから、な?」

「そん、なの、結果的に無事だっただけじゃないか。あんまり帰りが遅いから、心配したんだから」

「ありがと、ごめんな。もっと早くに帰ってこなきゃ駄目だったな、」


目尻に口付けて、あなたは眉を下げて微笑む。
そんな顔も可愛いなぁなんて、10年前から狂わされる一方の思考回路で思う。
無性に腹が立ったので頬を抓った。いてー、とかちっとも痛くなさそうに言う。


「…ねぇ、なんで僕も連れてってくれなかったの」

「そりゃあボンゴレ幹部のお前を俺の一存で勝手に連れてけねぇよ」

「やだ、僕はあなたと一緒が良い。別々なんて嫌だ」

「わがまま言うなよ」

「わがままじゃない」


潤んだ視界とかしずらい呼吸とか、もうなにもかも面倒になってきて、
あれ程抵抗したソファに結局自らあなたを押し倒して沈んだ。
本当に無駄な労力に終わってしまった。


「恭弥、不安がるなよ。俺はお前に無断で死んだりしねぇよ。お前が世界で1番好きだからな」

「馬鹿言え、僕のがあなたを好きだ」

「ん、愛してるよ、恭弥」

「僕のがもっと愛してる、あなたの言うのの100倍は愛してる」

「まじかよ、100万倍嬉しいぜ、恭弥」

「ディーノ、」


優しく微笑むあなたの唇に擦り寄る。
放っておかれた時間を取り戻すみたいに全身をあなたにくっつけた。


「…恭弥、眠いんじゃなかったのかよ?」

「眠くない」

「じゃあ愛し合っちゃう?」

「合っちゃう、」


それならベッドに行こうな、と頬にキスをするあなたにお姫様みたいに抱き抱えられた。
その僅かな移動のあいださえ隙間が空くのは嫌で、とにかく休みなく唇を触れ合わせる。
ふとあなたはテーブルの上の空の瓶やグラスに視線をやると、
また僕を見て困った様に笑って、アルコールに浮いた饒舌な唇にキスをした。


「ほんとに可愛い子だな、お前は」




 情 熱 を 饒 舌 に 語 っ て         









120518.



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